渡辺浩弐の日々是コージ中
第400回
1月25日「時は金ならず」
・失業して苦しんでいる人はとても気の毒だが、僕なんて一つ仕事終わるたんびに失業してるようなものなのである。それがもう何十年も続いているわけだ。
・仕事がない日はバスタブにはった体液等張水の中でじっとしている。脈拍は落ち、腹も減らなくなる。つまり老化を止めた状態である。金も使わなくていい。
・30年仕事をしなくても、30年長生きをすればいいだけの話なのだ。暇な時にあくせくして老化してしまうのは損なのである。不景気なら、休めばいい。
1月26日「一緒に考えない?」
・と、言い捨てるわけにもいかないので仕事論をしばらく続ける(そのうちどこかで改めてまとめるかもしれない)。まず、現在のシステムが崩れていくことは歴史の必然であり、それは仕方ない。としたら、会社にしがみつこうとする努力に意味はない。時計は逆には回らない。
・20世紀の生産と流通のシステムにおいては、大量の「歯車」としての人材が必要だった。だから人間を歯車として仕上げる教育システムがあった。歯車としての人間をもてなすための企業形態があった。それがもう無効になったということなのだ。歯車のほとんどは0と1の信号に置き換えられて効率化されてゆく。歯車としての人々は放り出されるしかないのである。
・自分で何か新しいことを考えたりしてはいけない、何も考えないで教えられた通り言われた通りにやること。それが20世紀の、エリートのスタイルだった。じっと土下座してれば偉い人がなんとかしてくれるだろう。そんなふうに思いこんでいる人はだから今、とても不幸だ。
・歯車ではなく、CPUになること。無理なら、モーターになること。それが今大事だと思う。どんな仕事においても重要なのは創作性(ないし、前向きな生産性)だ。
・どうすればいいかわからないって人は、取りあえず、少し休んでみてはどうだろう。落ち込んでも怒っても焦っても意味はない。海に投げ出されたときは、泳ごうともがくより、浮いてみるのもいいんじゃないか。たとえばしばらく、ひきこもってみるとか。贅沢しなければ、また変なプライドに拘泥しなければ、1年くらいはゆっくりできるはずだ(マスコミは過剰にスポットを当てたがるが保険も保護も下りないという人はいくらなんでも自業自得だ)。
・今後さらにデフレは進むだろうし、インターネットのおかげで、情報武装だけなら月数千円で出来る。衣食住の費用をミニマムに抑え、思索と勉強にのめりこむ生活を作るなら絶好の状況なのである。歯車としてではなく個人としての自分の価値を見つめてみるということ。一度社会に出ていろいろなことを経験した人こそ、そういう日々によって収穫があるはずだと思う。
1月27日「中野ブロードウェイホテル?」
・京都在住の作家・定金伸治先生(@大河ノベル『四方世界の王』執筆中)と会う。東京滞在が予定より延びたと聞き、中野ブロードウェイに泊まっていくことを薦めてみた。
・中野ブロードウェイ内にはホテルというか関係者用の宿泊施設があって、1泊3500円で泊まれるのである。昭和時代のラブホを彷彿とさせる、なごみ空間だ。窓もなく、ケータイの電波も入らないので、集中して仕事をするのにも最適だ。ここに泊まった時に起きる不思議な事象については、改めて書く。
第399回
1月21日「社会主義でいいなら」
・ベーシックインカム制度について電話取材を受けた。全ての国民に国が最低限の給料を払ってしまおう、というアイデア。ひらきこもり推進派だから賛成でしょという前提でのご質問だったので、ちょっと困った。そういうことじゃないんですよ。
・好きなことを楽しくやっていく、という生き方には、稼ぎたい、というモチベーションが不可欠だ。もちろん誰に対しても最低限の生活は保障されるべきだけど、経済活動から距離を置いては創作活動(ないし、前向きな生産活動)はできない。
・こういう発想の先には、政府が個人の経済活動のみならず生き方までを管理する社会がある。「もー仕事ないし家もないし何でもいいから悪いことして刑務所に入れてもらおう」って人がたまにいる。そこで、メンドーだからこの社会全体を、わざわざ悪いことしなくても入れる刑務所にしてしまおうってことではないか。
・日々ネットで自由に活発に意見を述べている多くのブロガーがベーシックインカムを支持していることが不思議なのである。「自由」って、そんなに簡単に手に入るものではないってこと、忘れてはいないか。
1月22日「1970年の記憶」
・国立科学博物館の特別展「1970年大阪万博の軌跡」(2月8日まで)を見に行った。「生命の樹」の一部が再現されていると聞いたからだ。「太陽の塔」内部の空洞に、地球上に出現した様々な生物のオブジェを歴史の順に配置したものだ。僕はこの空間をテーマに「1970年の『少年マガジン』」という小説を書いたことがあった(『コミックファウスト』誌に掲載)。
・生物の進化過程をたどりながらエスカレーターで上へ上へと進んでいく。最初は原始的な三葉虫やアンモナイトがいる。次にはイカや魚。やがて足が生えはじめ、そして巨大な恐竜が現れ……という具合。二足で歩き始めた人類のさらにその先がまぶしく明るくなり、太陽の塔のあの金色の顔の裏面が見える。ただしエスカレーターはそこまではたどりつかず、直前で横に移動して外に、つまり万博会場の大屋根に追い出される形だった。
・ところがそのエスカレーターからあの金色の顔に飛び移り、そのままそこで1週間たてこもった過激派青年がいたのだ。その行為の象徴性には未だに戦慄してしまう。
1月23日「お酒とチョコ」
・チョコの日々。今日も新宿伊勢丹サロン・デュ・ショコラ。<ドゥバイヨル>マルク・ドゥバイヨル氏のセミナーに参加した。テーマは、ショコラとワインのマリアージュ。
・チョコレート食べながらワインかー。推薦されたのはなんと日本の『”甲州”キュヴェ・ドゥニ・デュブルデュー』だった。特にフルーツを使ったボンボンショコラと合うんだって。
・ドゥバイヨルのショップは丸の内オアゾと丸ビルにある。それからサロン・デュ・ショコラに来られなかった方、ジャン=ポール・エヴァンのマカロンも、アンリ・ルルーのCBS(塩バターキャラメル)も、あるいはマゼのプラズリン(アーモンドキャラメル)も、今では伊勢丹地下の常設ブースで買えるようになっている。このあたりからハマってみては。
第398回
1月15日「ちゃんとお客に売って稼ぐ」
・出版プロデューサーの某氏と会う。出版不況は、想像以上のようだ。特に雑誌の広告収入の激減がきついという。
・ただしそのおかげで「ちゃんと売る」ないし「ちゃんと読者に届くものを作る」という風潮が出てきているという話があった。これまでは広告さえ入れば売れ行きなんてどうでもいい、という風潮があった。だから部数を水増し発表するところもあったりしたわけだ。しかし、今後重要なのは販売の収益でぎりぎりでも採算がとれている出版物、ということになる。
・マイナージャンルの専門誌などが見直されているらしい。少部数でも値段を上げたとしても支持層にきっちり固く売れ続ける、そういうものが求められるわけだ。これって、もしかしたら健全なことかもね。
1月16日「渡辺君に言わせると」
・講談社BOXの太田さん、刷り上がったばかりの新刊『吐田君に言わせるとこの世界は』を持参してくれた。おなじみの銀の箱ではなく今回は「講談社BOXピース」の1冊として、コンセプチュアルなデザインで仕上げて頂いている。書籍の、「モノ」としての価値をその中身つまり小説の内容と一致させることにこだわり、太田さんにもデザイナーさんにも苦労をかけた。ちょっと特殊な装丁だし、ぜひ、触ってみてほしい。
・一人一人に手渡ししたいくらいに大事に思っている本です。もし気にいったら、あなたの大切な人にも、おすすめしてください。よろしくおねがいします。
1月20日「祭りの季節だ!」
・今日は新宿伊勢丹のサロン・デュ・ショコラ2009 (パリで行われている「チョコレート祭り」の出張版/26日まで) プレビューに。
・初めての方は、ショコラバーで好みのチョコレートを吟味するところから始めるといいね。ボンボンショコラ3個と飲み物を1,050円。追加3個で840円。
・アンリ・ルルーのブースではC.B.S(塩バターキャラメル)のアイスクリーム(=写真)が出ていて劇的においしかった。マゼのブースではプラズリン(アーモンドキャラメル)のメイキングを見ることもできた。去年瞬殺で売り切れていたベルナシオンのボンボンなど大量ゲット。ごめんなさい。当分また3食チョコレートで暮らすことだろう。