渡辺浩弐の日々是コージ中
第140回
03年11月6日「隣接業界の距離感」
・六本木ヒルズにて、「TIGRAF(東京国際CG映像祭)」ゲーム特集デー。モノリスソフトの杉浦氏、スクウェア・エニックスの直良氏、カプコンの三並氏、そしてUGAから独立されたばかりの水口氏らによるプレゼンテーションが行われた。その後、全員が一同に会してのシンポジウムが行われた。僕はその司会を担当した。
・それぞれが制作しているゲームについての解説は各人のプレゼン内で語り尽くされていたこともあり、ここではゲームの周辺の話題が膨らんだ。制作スタイルが激変している状況、そして様々な業界のノウハウやスタッフを取り込みつつ巨大化していかざるを得ない制作現場の苦労話など。ゲーム制作においては特にプロデューサーの重要性が大きくなりつつあるようだ。
・ゲーム業界とCG業界の距離感は近いようで遠いようで近い。水口さん(『スペチャン5』や『Rez』で有名なクリエーター)は、このイベントのプロデューサー河原さんと以前からの知り合いだったようだが、控え室で「僕はミゾグチではなくミズグチですからね!」と、かなり強い調子で主張されていた。そんなにきつく言うこともないのにと思ったが、その後シンポジウムに臨むと、挨拶に立った河原氏はずーっと「ミゾグチさん」と間違い続けていた。
03年11月9日「ごめんなさい」
・「中野ブロードウェイ」明屋書店にて、『エンカウンター』第4巻発売記念のサイン会。木ノ花さくや先生の意向で来場者一人一人にきちんと対応されていた。全員に希望の絵を入れてあげることにしたらいろいろと無理難題が続いていて、横で見てて面白かった。「木ノ花さくや」とはF先生とA先生の合作ペンネームなんだけど、彼等はキャラクターを、一人が顔、もう一人が髪の毛といった具合に、2人で同時に描くんだよ。かなり時間はかかったけど、せっかくやるならこういうサイン会がいいですね。
・これでしばらくは人前に出る仕事はないけど、中野に訪れてくる方々とは引き続きバーチァリ庵でいろんな話をし続けようと思う。ただ何度も言うようだけどいきなり来ないでね。
・ところで知らなかったが先日の夜中、中野ブロードウェイ内に包丁を持った男がうろついていたということで、警察も来て、大騒ぎになっていたらしい。聞くとそれは10/31の夜のことだった。その時僕は何をやってたかというと確か真夜中にハロウィンのキル・ビル・コスプレをしたままバーチァリ庵に戻って……あっ。まさか……(日本刀はオモチャだったんだけど)。
03年11月10日「遺跡探検」
・ローカル情報。中野南口の五叉路に、「中野光座」と看板が出た建物がある。これは中野ブロードウェイ、名曲喫茶クラシックと並んで中野三大遺跡の一つと呼ばれている。外壁はトタンなので外から見るとどう見てもバラックなのだが、中に入るとがっちりした鉄筋の建物であることがわかる。そこに、昭和三十年代のピンク映画館の世界がそのまま残っているのだ。一部分剥げかけた壁、微妙に歪んでる柱、いんちきくさいシャンデリアやビロードのベンチ、男子でも気を付けないと襲われそうな細い廊下や狭いトイレ……もちろん映画館としてはもう何十年も前に閉鎖された場所なのだが、事情があって冷凍保存状態に入ってしまったらしい。おかげでなかなかのタイムスリップ感が楽しめる。
・このスペースは通常締め切られているが、たまにお芝居や自主映画の発表に使われることがあり、その時だけは堂々と中に入れる。*今はちょうど劇団「新転位・21」の公演が行われている(11/18まで)。
・調べてみるとここ、一日5万円程度で借りられるそうなのだ。小ぶりとはいえ映画館まるごとが一日5万。有効活用できるという人は結構いるんじゃないだろうか。いっそ月150万で事務所として使うってのもいいかも。
第139回
03年10月27日「一生寝て暮らす方法」
・終日、ごろごろしながら原稿書き。僕の場合本当に寝ながら書いている。例の特製マイクを鼻の穴に入れておいてしゃべる。と、その音が音声認識されてテキストデータになるシステムを組んであるのだ。
・半分眠りかけながら思いついたことを口もあけずにふにゃふにゃと喋る。そんなことを一日やってると相当分の原稿がたまっているので、後でそれをテーマに切り分けて推敲して媒体別に振り分けて売る。
・この方法を続けているとひとりごとを言う癖がつく。面白いのは、ほとんど眠りかけの時や起き抜けの時に自動的に書かれた原稿で、夢うつつの脳裏をよぎった風景やイメージが書かれていることである。夢を録画する感じだ。それを素材にして小説を書くこともある。
03年10月28日「ゲームとCG」
・「TIGRAF(東京国際CG映像祭)」の打ち合わせで、主催者の方々、そしてモノリスソフトの杉浦氏、スクウェア・エニックスの直良氏、そして元UGAの水口氏とミーティング。
・ゲームの場合、CMや映画におけるCGと狙いが違う。ただ美麗な微細な映像を追求するだけではだめなのである。映像のすばらしいクソゲーはいくらでもあるわけだ。このあたりが難しいところだ。僕としてはこの際クリエーターにゲームの「脱・CG」傾向について話してもらっても面白いと思うんだけど、そういう論議においてはCG映像祭という企画そのものを否定するような意見も出てくるかもしれない。どうなることやら。
03年10月29日「僕らは本当に豊かなのか」
・中国へのODAや北朝鮮への人道支援の見直し論が盛んだ。どっちも上の方が贅沢三昧で札びら切ってる状況が見え見えだからである。
・しかしね、日本国民のほとんどが、かの国々の民衆について貧乏だと思いこんでるならば、それでなにがしかの救いや憩いを得ているのならば、援助は続けるべきなのである。
・だってこれらの国々の主要生産輸出物は「貧困」なのだから。
03年10月30日「アメリカが23人の村だったら」
・『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のラース・フォン・トリアー監督の新作『ドッグヴィル』試写。テレビゲームはリアル化が進みすぎてつまらなくなっていると思う今日この頃。その反対に映画の抽象化は本当にすごいと思った。
・どれほどすごいかというと。3時間にもわたる超長編の舞台は廃工場を改造したスタジオ一カ所のみ。そこが山奥の小さな村「ドッグヴィル」を表す。ところがセットはなく、ただ、床に引かれた白い線だけで、道路や、広場や、それぞれの家が示される。俳優は透明な空間の中で演技を続けるのである。なんというか、アリの観察の様な視線。
・映画の抽象化によって、アメリカ社会を抽象化する試みである。たった23人のキャストで、現在の全アメリカを象徴してみせるのだ。そこをシンプルな閉鎖空間と過程することによって、その過去と現在と未来をシンプルな思考実験の対象にしてしまうことに成功しているのだ。
・複雑化していくにつれその社会は仕事のための仕事を生み差別のための差別を拡大していく。そしてその結末はあまりにも衝撃的だ。ハリウッドが「アメリカって本当に素敵な国」と思わせる映画ばかりを作っているからこそ、「アメリカって本当にやな国」と思わせてくれるこういう映画は重要だ。
03年10月31日「ハロウィン」
・タトゥー東京にて、カプコン社『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』ゲーム化発表会。1年後に発売予定の作品だが、既にかなり仕上がっているようで驚いた。あの心にちくちくクる異様なキャラが3D-CGになってかっこ良く動いてるぞ。
・ハロウィンパーティー形式の発表会だったので、三並プロデューサーはじめ列席者は全員コスプレしていて、挨拶しようにも誰が誰だかわからない。
・僕はというとその後に着替えて、イエローの『キル・ビル』ナイトに。ビル・ゲイツのコスプレをしてったのだ。着るビル。
第138回
03年10月18日「おじいちゃんにもケータイを」
・誰もが情報を共有できるインターネットのおかげで「携帯電話は心臓ペースメーカーに悪い」という説が覆されつつある(現実には10センチ以上離れればほとんど影響は出ないそうだ)。半端な決めつけが、ペースメーカーつけてる人は街歩きすら控えるようにというような風潮を、さらには「おじいちゃんに携帯電話なんかとんでもない話ですよ」的な差別を生む。体に心配のある人こそ、携帯電話を持って欲しいと思う。もちろん十分な注意の上で。
・規則を決める側の人々の怠慢と傲慢って本当に嫌ですよね。それが情報網のおかげで暴かれていくのは良いことだ。インターネットがなかった時代には例えば「運動中は水飲んだらいけない」みたいな迷信がずいぶん長く続いていた。
・さて、ガソリンスタンドで携帯電話の使用を禁止している理由も僕はよくわからない。どなたかがきっと「ケータイから火花が出てそれが引火する可能性がある」と、本気で考えてるのだろう。その人は、そんなところに電子機器のカタマリ「自動車」で近寄ることは平気なんだろうか。
・好評なので美女研究所のオフショットもう一発。当日はどしゃぶりで制服ずぶぬれになっちゃいました。ごめんね。
03年10月24日「ゲームとCGと映画」
・TIGRAF(東京国際CG映像祭)にて、企画の一つとしてゲームクリエーターによるシンポジウムが開催されることになり(11月6日)、準備を手伝っている。今、日本のCG業界の中心は映像・映画業界ではなくゲーム業界なのだ。
・今日はカプコンに呼ばれ、パネリストの一人、三並プロデューサーと打ち合わせ。『バイオハザード』シリーズ、あるいは、深作欣二監督起用による『クロックタワー3』の制作で知られている人だ。ゲーム制作者の立場からCGを見る視線は非常に興味深い。
・ところでファンタ(東京国際ファンタスティック映画祭)の方では『GAME KING 高橋名人VS毛利名人 激突!大決戦』を上映するらしい。本当かよ。えーと、もしあの対戦の時に無敵ロム使ってたとしたら、あんまり大きなスクリーンでやったらばれるんじゃないかなあ。どうでもいいか。
03年10月25日「シリーズ化に期待」
・『キル・ビル』。スシ、ゲイシャ、ヤクザ、コギャル、チャンバラ、……と、変な日本・大爆発。そこがどの国より日本でいちばん受けるのだ。笑いモノにされても、注目されてるってことを喜んでしまう。日本人って、そういう、クラスに一人はいるいじめられっ子タイプなのだろう。
・そしてこういう映画が出現するたびに、日本のアニメやマンガの影響が語られる。しかし例えばタランティーノが心酔した深作欣二監督がマンガやアニメを見ていたか言うとそうではないのだ。日本のポップでキッチュなB級ビジュアル文化の創成について、別の要素も見付けておかなくてはならないはずなのである。この話、別の機会にまた書く。
・さて『キル・ビル』の展開は、『仁義なき戦い』リスペクト・パターンだとしたら『2』で完結すると思うのは甘いのではないか。