渡辺浩弐の日々是コージ中
第250回
2月16日「ひきこもりの天才を探す」
・『ゲームラボ』編集部の岩田さんと、ライターの吉田さんと、中野ブロードウェイに集合。新連載の打ち合わせだ。いかがわしさとメジャー感が同居するこの雑誌でこそやれそうなことがいろいろある。
・ひきこもったままで才能を発揮する、そしてそれでちゃんと稼いで食っていける。そういう方法論がないか、という考察からスタート。小難しくいうとオタク文化における「バーチャルとリアル」そして「無料と有料」の境界線をさぐっていくことが主眼。拠点は「インターネット」と「中野ブロードウェイ」だ。
・てなわけで同誌上でまず「ひきこもりの人」を大募集する。問題は、どうやって連絡を取り合うかだ。
2月19日「萌えフロント」
・造形物の展示即売イベント「ワンダーフェスティバル」。前回オリジナル作品の百花繚乱ぶりに驚き、しばらくは通おうと思ったわけです。
・CGクリエーターの岡崎武士さんが造形界に参入してきたことは前回のレポートでも書いたが、彼の作品が早くも「ワンダーショーケース」に入っていた。これは主催者(海洋堂)側が評価した作家・作品をフィーチャーする特設ブースだ。「ワンダーフェスティバル終了後も、彼らの作品は半年のあいだ(株)海洋堂のアンテナショップ『HOBBY LOBBY TOKYO』店頭およびインターネット通販にて販売され」るということなので、チェックしてみて欲しい。
・マンガ家として人気絶頂期の岡崎氏がCGを始めた時にも驚いたものだ(その時も、彼はすぐに3D-CGの国際的な賞を獲得してみせた)。新しいことに余技ではなく本気で取り組んでいくスタンスが、大事ですね。
・素晴らしい作品を作り続けているにもかかわらずいわゆる「萌え」路線から外れているせいで商業性を失ってしまったマンガ家やイラストレーターはとても多い。時代を呪うより、岡崎さんに学ぼう。
2月20日「片手で読める渡辺浩弐」
・ニワンゴwww.niwango.co.jpでケータイ配信している小説が好アクセスを頂いてるらしい。ここはがんばりどころだと思うので、日刊連載(毎日1本アップ)をスタートする(携帯電話でm@niwango.jpに「小説 おすすめ」とメールすれば、その日追加された小説が読めるよ)。
・書き下ろしと並行して、書籍が手に入りにくくなってるものや、単行本に入ってないものを中心に発掘作業も進めている。ケータイメールのフォーマットにおさまる作品を選んで、カスタマイズをほどこしながら載っけていく、という形になる。渡辺の作品を見かけたことがある方は「こーいう話なかったっけ」てな感じでリクエスト頂ければできるだけ対応するよ。
第249回
2月13日「昭和の遺産・復刻」
・表参道ヒルズに行ってみた。長城のような建物の端の一角が、旧同潤会青山アパートを再生した「同潤館」になっている。
・この中にある「ギャラリー同潤会」にて『同潤会記憶アパートメント』展が行われていた。これは昭和の表参道の象徴だった同潤会青山アパートメントを、各種メディアを使って記録再生するプロジェクトである。アーティストグループが中心となり、インターネットを活用して、アパートメント取り壊しの数年前から素材や記憶の収集作業が進められている。今回は写真、映像や図面の展示に加え、PSPを使って往事の風景を立体視させるという試みもあった(=写真)。
・残念ながら週末には終わってしまうものだけど、シリーズで行われている企画なので、またの機会を楽しみに。
2月14日「昭和の遺産・再生」
・『機動戦士ZガンダムIII 星の鼓動は愛』試写。’80年代のテレビシリーズを1クール分ずつ再構成・劇場用版に仕上げていく企画、第3弾。この3部作は、往事のマニアや、未体験の若い人だけでなく「ガンダムに乗り遅れたまんま」というコンプレックスを抱えた人達にも、ちょうど良いと思う。
・セル画作品という、過去コンテンツをデジタル化・再生させるという意味で非常に価値のあるプロジェクトだが、決して老け込まない富野監督のパワーにより、新作としての魅力が吹き込まれているところがポイントである。
・新撮部分に気合いが入っていて、物語を追加するためというよりも、決めのシーンを浮き立たせるために使われている。特にラストの10分は完全に新作になっている(そのためマスコミに対して情報規制までかかっている)。
2月15日「2999年、ではなく2415年」
・『イーオン・フラックス』試写。致死ウィルスによって人類の99%が死滅してから400年。生き残った人類の子孫500万人は壁で閉鎖された街で暮らしている。完璧な管理社会の中では完璧な幸福が約束されている、はずだったが、忽然と消える人々の謎を誰も知ることはない。
・そこで極秘の活動を続ける美少女テロリスト、イーオン・フラックス(シャーリーズ・セロン)。彼女は遂に街を支配する要塞への侵入に成功するが、その時、覚えのない光景が脳裏に次々と浮かび上がり、自分自身の存在を疑い始める。
・デザインには本当にこだわっている(特に衣装と建築)。忍者アイテムやサクラやタタミなどの象徴的な使い方も面白い。ただしカメラワークと編集がわかりづらく、例えば動いている人々の位置関係がしばしば混乱する。テンポもだるい。……と、いう印象は、優秀なアニメとつい比較してしまっているからだろう。
・実写としてのポイントは、肉体性だ。『モンスター』であれほど醜くなってみせたシャーリーズ・セロンがパーフェクトな姿態を取り戻して、アクロバティックなアクションをこなしている。スポーツ選手ですら自己管理できない時代にハリウッド女優は凄いなあ。
第248回
1月30日「お帰りなさいませ勇者さま」
・こういう話はもう飽きてしまわれたかもしれないが、事務所の近所に今度は「勇者カフェ」ができた。「お帰りなさいませ勇者さま」と迎えられるので、武勇伝を語ってあげてほしい。メイドさんはエルフなので耳が大きい。
・有名マンガ家の某先生と一緒に入ったら、オーナーさんが席まで挨拶に来た。その方もマンガ家さんだったのである。現役で連載もってる人だ。
・力士がちゃんこ屋をはじめるように、芸能人がスナックをはじめるように、オタク産業のクリエーターも現役のうちに何か商売をはじめるようになるのかもしれない。としたらコンセプチャルなメイド喫茶はありだな。
・ところでお客さんの一人が「じぶん今『執事カフェ』の面接受けてきたんです」と言ってた。池袋乙女ロードに、できるんだって。執事カフェで稼いでメイドカフェで使うんだね。
2月6日「東京はアニメのハリウッドになれるか」
・「東京国際アニメフェア」公募部門の審査員を拝命している。その応募作品が送られてきたので、缶詰になって観まくっている。ものすごい数なので、まず審査員それぞれが独自に一次採点しておき、しかるのちに集まるというプロセスなのである。
・今年の作品数は235本、そのうち115本が海外からの応募だった。なんと19か国から集まっているのだ。日本のアニメに強く影響を受けている海外作品も多く、審査しつつ、個々の作り手のアニメ体験に思いをはせた。この文化において、東京は世界の中心地になっている。今後、戦略拠点としてハリウッドのようにブランディングしていくことも可能と思われる。
2月7日「逸品……」
・『ファミ通』のインタビューを受ける。「逸品拝見」というコーナー。クリエーターが所有の宝物や珍品を紹介する、というものである。同じ号の別ページで高橋名人のインタビューが掲載されるということを聞き、名人関連の超絶レアアイテムを出すことにした。ヒント:ナマモノ。
・話の内容としては、ゲーム業界黎明期のことなど。1979年のスペースインベーダー・ブームから1985年の高橋名人ブームまでの「現象」はきちんと検証し、記録しておかなくてはならないと強く思っている。今再びの高橋名人ブームを待望している理由も、そこにある。それは決してノスタルジーではなく、新しいものをきちんと作り続けるための構えとして。
・例えば最近は携帯機などでレトロゲームが静かなブームだけれども、メーカーはゲームをただ商品として出すだけでなく、その周辺の時代の雰囲気までを伝える努力もやっていってほしいと思う。