渡辺浩弐の日々是コージ中
第390回
11月21日「叩く」
・12月発売の『レッツタップ』(Wii/セガ)サンプル版届く。コントローラーを持たずにプレイするゲームである。Wiiリモコンを置いた箱や台の表面を叩いて、その振動で操作するわけだ。
・叩くだけで操作すると聞いてもっと大味なゲームをイメージしていたが、違ってた。指先の皮膚感覚がそのままゲーム画面に伝わるほど繊細なのである。ばしばし叩くというよりピアノを弾くように微妙な力の入れ具合を調整しながらプレイする。
・制作者は、ソニックシリーズの中裕司さん。『Wiiミュージック』の宮本さんといい、第1世代のクリエーターが、インターフェイスの段階からゲームをいったん解体して作り直す作業に取りかかっていることはとても興味深い。
11月22日「遊ぶ」
・産学協同のブロジェクトに呼ばれ、協力を依頼された。ゲームのことを研究しているという学者さんと話した。結果から言うと、残念だけどお断りしてしまった。
・ゲームのことを研究しているのに、ゲームに実際にハマった経験がない、ということにコンプレックスがない人が多いのは不思議だったが、そのほうが客観性を保てるという言い訳があるんだね。けれどゲームにはいろいろな種類のものがあるという前提すら理解してなかったりすると、本当に困る。
・そういう人達は、マスコミ受けを狙って、記事になりやすい結論を先に決めてからそのために実験をするわけである。適当に選んだゲームを、被験者に電気ショックを与えたりしながらプレイさせて、ゲームは残虐性を加速するなんて主張している学者もいる。残虐なのはあんただろうが。
・そういう言説をゲームのプレイヤー側はもちろん無視する。ところがゲームを知らない一般層は本気にしてしまったりする。両者の距離はなかなか埋まらないのである。自分としては違う視点からのゲーム研究をそろそろ再開したいと思っている。取りあえず個人でできる範囲で、ゆっくりやっていくよ。
11月28日「耕す」
・農業を始めようと思っている。土地も購入した。鍬や鋤はどこで買えば良いのかと探していたが、かなり本格的なものが、近所(中野)の島忠であっさり見つかった。都心でも農業、もしかしたら静かなブームになっているのではないだろうか。理由はいろいろ考えられるよね。
第389回
11月12日「文鎮としてもいい」
・『ポメラ』が意外なほど使えたので、iPhoneも購入。このマシン、いらないと思い込んでいたけど、ネット端末専用として割り切るのならこんなにすばらしいツールはない。『ポメラ』とこれの2台で仕事はほとんど済んでしまう。どこにいてもストレスなし。
・20年前に個人事務所を始めた時は、200万のローンを組んでワープロとコピー機とファックスを揃えた。毎朝図書館に行って5種類の新聞を読み、毎週1回大宅図書館に行って雑誌情報を絶やさないようにした。それが最低限のことだった。今は、楽になったなー。こんな時代になぜ、就職なんてしようと思うんだろう?
11月13日「完売らしい」
・以前インタビューして頂いたやずや・やずやさん(講談社の批評家育成プロジェクト・ゼロアカ道場「チーム1980」)から同人誌『ケフィア』届いた。ものすごい密度の本だ。イベントで参加同人誌中1位だったらしい。おめでとうございます。
・僕のページも、とりとめのない話を良い原稿にして頂いていて、有り難かった。取材から完成まで、お忙しい中、こちらにまで細やかに心配りくださって、感心した。編集力だけでなく、きちんと気持ちよく仕事を進めるプロデュース力もある人だよ。
11月14日「秋」
・中野ブロードウェイは壁面を蔦が覆っている。それどころか部屋の中にまで入り込んできている。今の季節それが紅葉して、目が眩むほど美しい。
・窓の外には、東京と思えない廃墟が広がる。この場所のこの瞬間の特異性をよく記憶にとどめておこう。
第388回
11月2日「SF的風景の一部になる」
・CMフェスティバルの会場ロビーで、「MEDIA PORT UP」(ニコン)のショウイングをやっていて、じっくりと体験することができた。
・ヘッドフォンの前面に突き出したアームに小型ディスプレイが設置されている。映像をここから効き目の眼球に直接投影する仕組み。つまり映像は、視界の風景の中に巨大なスクリーンがぽっかりと浮かぶ形で見える。
・これの原形になった技術は、もとは80年代軍事の世界で開発され90年代には湾岸戦争などで実用されたものだ。エンジニア系の兵士が、戦地において例えば戦闘機や戦車を操作したり修理したりするために用いられた。分厚い設計図を持つ代わりに、目玉に投影された設計図を現実に目の前にある機械と重ね合わせながら両手で作業できる。
・みんながこういうギアを装着して、そこからネットに接続して生活したら、どんな世界になるか。さらにこれにカメラを着け、受信だけでなく視界映像を発信するようになったらどうなるか。と、ここから先は渡辺浩弐の小説を読んで下さい。
11月10日「ポメラニアンになる」
・キングジムのミニワープロ『ポメラ』を購入。文章を書く、ということだけに特化した携帯マシン。枯れた技術の水平思考。キーボードは折りたたみでちゃんとしたのがついてるしATOKは入ってるし、執筆については何の問題もない。なんで今までなかったのだろう。
・僕はデスクに向かっているときではなく、ぶらぶら歩いてる時に頭の中で書くことが多い。それを脳から取り出す作業つまり執筆作業の時間が、ひたすら退屈なのである。書きながら酒を飲んでしまう癖がついてしまうような作家さんは、たいていこのパターンだと思う。それで歩きながら片手でケータイ電話に入力する技術もマスターしたが、座る場所さえあれば、ポメラの方が便利そうだ。
・ところで二つ折りにされたキーボードの接続部分が開け閉めするたびに簡単に外れて内部がむき出しになるのは仕様なんでしょうかキングジムさん。この構造については激しく改良の余地があると思う。
11月11日「今度は料理小説」
・『パンドラ』から急にボールが来たので、書き下ろしを一気に仕上げる。全てポメラで書いてみた。難点は1ファイルの制限が約8000字だってところくらいで、それにしてもすぐ慣れるだろう。快適に、1本仕上がる。
・『吐田家のレシピ』という読み切り短編。もしかしたらこれ、ポメラで書かれた最初の小説かもね。