渡辺浩弐の日々是コージ中
第90回
02年11月1日「ゲームか戦争か」
・来春”コンピュータチップ”がシンガポール先物取引所に上場される。先物取引とは、つまり大豆とかアズキとかトウモロコシの値動きに投資するアレである。8月頭に4ドル強だった256メガDRAMは、10月に入る頃には2ドルを切りそうになっていた。アズキ相場よりもこれは不安定な市場かも知れない。
・農産物の価格は天候異変に大きく影響されるが、チップのニーズにはパソコン業界とゲーム業界の新製品・ヒット製品情報が関係する。情報力に自信のある人はトライしてみてはどうだろう。
・それ以外に大きな要素として、軍事情勢も関係してくる。先進国の戦争には、チップをゴマンと積んだハイテク兵器がばかすか投入されるからである。逆に、パソコンやゲームの世界に大きな新製品の予定がないのに大容量チップの価格が暴騰した時は、何か起きると考えた方がいいかも。
02年11月4日「早稲田祭復活!」
・政治的な事情で中断していた「早稲田祭」が、学生主導の形で6年ぶりに再開。僕は学園祭については、体制側が制御する形も、一部団体が仕切る形もどちらも気色悪くて、学生時代は一度も行かなかった。しかしやりたい学生がさっさとやってしまうこの形態は、すごく正しいと思う。がんばってここからまた発展させてほしい。
・僕も講演会に呼んで頂いた。ネットでも本でも書ききれなかった「ひきこもり/ひらきこもり」論を、最新の極秘映像をいろいろと上映しつつ、1時間ほど話す。その後、会場に残った人達といろいろ雑談。普段あんまり真面目に学校来てないような人が多かったことが、うれしかった。ネット時代、知識に貴重価値はなくなったのだから、頭古くなってしまってる先生の授業をありがってないで、むしろこういうイベントを年中やってるべきだ。
・1000円札を「投げ銭」してくれた人もいて、嬉しかった。
02年11月5日「やっぱり!!」
・少年ジャンプ編集部に。『ジャンプデジタルマンガ賞』の受付が終了し、全応募作品が揃ったので。
・やっぱりこの領域はすごいことになっていた! どうすごいかは、そのうちいろんな形でリポートします。この企画を今年始めたジャンプは慧眼だった。と、10年後くらいに語られると信じる。
・と喜んでばかりはいられない。これから、僕も及ばずながら力添えしつつ、審査だけでなく、個々の作家さん達との深いコミュニケーションが始まることになる。一緒に歴史を作っていきましょう。
第89回
02年10月28日「10周年記念」
・六本木で福田クンと『おかえり! PCランド』計画の打ち合わせ。準備は全て整った。あとは金だけだ。あと、たった1億あれば実現である。
02年10月29日「ゆきゆきてアメリカ」
・『ボウリング・フォー・コロンバイン』試写。コロラド州コロンバイン高校で2人の少年に銃を乱射させたその責任は一体誰に!? という疑問を胸に、マイクを手に、突進するジャーナリスト、マイケル・ムーア。『電波少年』いや『ゆきゆきて神軍』の銃社会アメリカ版。例えば弾丸を販売したKマートには、コロンバイン事件で障害者となった少年達を連れて突入し、結局同チェーン全店舗から弾薬類を引き上げさせる。
・ところでタイトルにこめられているのは「コロンバインの2少年は凶行の直前、ボウリングに行っていた……ならばテレビゲームやマリリン・マンソンのライブよりも、ボウリングを糾弾し禁止するべきではないのか」というような意味。かっこいい!
02年10月30日「日本で映画祭やるなら」
・東京国際映画祭のCG特集企画「ティーグラフ」に。パンフレットに寄稿させてもらっているのだ。
・バブル期の勢いで始まった東京国際映画祭は、いまだに「東京」で「国際映画祭」をやる意義を証明できていない。海外から注目されるようなものでなければ意味がないわけだし、お祭りなんだからとことんあざとくやるべきだ。そういう意味では、アニメやゲーム、そしてCGテクノロジーを全面的に前に出していくべきだと僕は思うのである。「ティーグラフ」がそういう動きのきっかけになるといい。
・今日はセガ、ナムコ、カプコン各社からのプレゼンテーション。僕の隣に座っていた外人さんが、黒い皮ジャン+角刈り+チョビヒゲ姿で壇上に登場したカプコン稲船プロデューサーを見て「彼はハードゲイなのか」と聞いてきた。
第88回
02年10月18日「アジアの中心はどこ?」
・シンガポール経済開発庁のタンさん来社。デジタルマンガやデジタルアニメについて調査しているという。アジアのハブとして機能しているシンガポールは、IT戦略にもとても積極的である。既に光ファイバーのネットワークをアジア全域に行き届かせ、さらにサーバーや、あるいは認証や課金のシステムの構築も進んでいるらしい。
・ウチのような小さなチームの地味な活動にまで目を留めて、やって来てくれたわけだ。すごい情報収集力だと思う。日本のお役人ももっとがんばるべきかも。
・シンガポールは自由貿易港として、物流の拠点として急成長した国だ。商品がデータになると、こういう国の優位性はさらに高まるだろう。コンテンツ生産者にとっては、発信地がどこにあってもいいわけだ。税法や著作権体系がフェアに成立している国に拠点を移すという動きも出てくるはずだ。こういうこと、一緒に勉強してみたいという人、アクセス乞う。
・さて実は僕は昔アジアをぶらぶらしていた時があった。当時(20年前)シンガポールのガイド雑誌に写真が載ったことがある。これ。
02年10月21日「ひらきこもろう」
・講談社の田中氏と打ち合わせ。ネット連載から生まれた例の本、結局『ひらきこもりのすすめ』というタイトルになりました(講談社現代新書/11月20日発売予定)。『会社をやめよう』『一生遊んで暮らす方法』『渡辺名人物語』等など、いろいろな案が出たのだけれど、連載スタート時に思いついた「ひらきこもり」という言葉に今はずいぶん思い入れがあるので。この言葉で元気出してくれる若い人がたくさんいるといいんだけど。
・書き下ろしの本がスタジオ版だとしたら、こういう本は、いわばライブ版と言えると思う。ただしプロ・ミュージシャンのレコーディングと同様、ライブで録ったものを徹底的にリミックスし、修正をかけ、要素を追加した。そのあたりにも注意してもらえるとうれしい。
02年10月22日「本も大切」
・三軒茶屋『ファミ通』編集部に。今年末はRPGの大作が多いので今かなりお忙しいようである。名物「椅子寝ラー」を見学した後、単行本リリースの打ち合わせ。
・『プラトニックチェーン』をテレビで見てくれた人から、原作本の問い合わせが相次いでいる。実はまだ、ないのだ。単行本が出てないうちにアニメ放映が始まってしまっていたのだ。雑誌連載で読んでくれてる方々からの要望もあるので、きちんと本にまとめることにした。
・それから、ずっと書き続けていた『ゲーム・キッズ』シリーズも、単行本で完結されることになった。てな感じで予定を立てていくと、年末から来年初夏まで、ほぼ月刊で単行本を出すことになる。ネット時代に対応、なんていいながら実はアナログな活動の方が忙しかったりする今日この頃。