渡辺浩弐の日々是コージ中
第180回
9月14日「ゲームから映画へ」
・CGプロデューサーの倉澤さんと会う。1ヶ月半も海外出張していた直後らしい。シーグラフで最高賞を獲得した『鬼武者』シリーズのムービーシーン等、特にゲーム界での実績を知られている人。最近は海外のプロダクションとのコラボレーションがとても多いようだ。
・日本では実写映画をやっていても世界マーケットを意識する機会にはなかなか出会えないものだが、その点、ゲームはすごく恵まれていると言う。映像コンテンツの全体がデジタル化しつつある今、世界の映画界からもゲームは注目されている。ゲームの延長に大きなチャンスがあるのだ。
・CGやゲームの業界を目指すような若者は、グローバルな視野を持っておくべきだ、とのこと。英会話くらいはやっておいた方が良いみたいだ。そして映画で天下をとりたいという野望のある若者も、今ならゲーム業界に入ってもよいのではないだろうか。
・これまでゲームの世界で「CGムービー」と呼ばれていた概念が、最近、映像業界全体において「CG シネマティクス」と呼ばれるようになっているらしい。この言葉にも広がりの可能性を感じる。このあたり、CG映像祭でいろいろ語って頂くことに。東京国際CG映像祭は10/31、31の2日間、六本木ヒルズで開催される。詳細はまた。
9月15日「ゲームから文学へ」
・デジターボ社の小坂社長と会う。美少女ゲーとして括られがちなパソコンのアドベンチャーゲームの世界から、メジャー展開を図っているメーカー。本格的ロボットものの『デモンベイン』シリーズを家庭用ゲーム機(PS2)のマーケットに問う等、様々な戦略を実行中。
・個々のゲームタイトルで大ヒットを狙うだけでなく、この領域で育まれたノウハウを一般マーケットに応用するという手もある。例えば美少女ゲームのフォーマットは小説形式のコンテンツをデジタル化するのにとても向いている。デジターボ社では「キッズgoo」に『スクールライブ』というゲームを提供している。僕らの目から見たら美少女ゲーそのままのシステムの上に、低年齢層でもゲーム未体験者でもすぐに楽しめる小説ゲームが走っている。ライトノベルがゲーム世代に売れている今、こういう方法はとても有効だと思う。
・さてマニアックな、しかし、ややもすれば閉じがちなマーケットからの広がりを目指すとき、ネットの使い方が鍵になっていくわけだが、その際に、タダで広げていく作業と、値付けをして売っていく作業のバランスはとても難しい。小坂さんが過去行ってきた様々な試みの話がとても面白かった。例えばCD-ROMをUFOキャッチャーに入れてみたりしたそうだ。
9月16日「宿借生活」
・さすがに原稿仕事がたまってきてどうしようもなくなってきた。一念発起して南の島へ。逃亡ではない。原稿仕事なら体1つとケータイ1個あればなんとかなるわけで、別に東京にいなくても良いのだ。
・目の覚めるような青色のヤドカリを見付けて、机上で遊ばせながら原稿。パンとかポップコーンを食べるよ。可愛い。でも今の時期は捕獲禁止らしいので、持ち帰れないんだよなー。
第179回
9月2日「杉山さん」
・CG業界リサーチの日々。デジタルハリウッドの杉山校長と会う。杉山さんに初めて会ったのは1991年、アメリカ在住の異常天才プログラマーの人に紹介された。当時からあの風体だったので、正直言うとヒッピー崩れのハッカーかと思っていた。
・今はそのスタイルが高円寺の街にもしっくりと馴染んでおられる。この人くらい一貫した人は珍しい。デジタルコンテンツやネットワークについても、当時から今と同じ様なことを言っておられた。世の人々はその後90年代中盤、彼の言っていたことがどんどん現実化してから驚くことになるわけだ。
・MITから日本に戻ってこられた直後で、最初は大学の中に籍をおいていろいろな機構、機能を立ち上げようとしておられたように記憶している。その後大学を離れられて~ベンチャーの立ち上げを手がけられ~そして専門学校、大学院に続いて~今はまた大学を、それも1から作ってしまうという仕事に忙殺されている。スタートラインの大学からまた大学に、それも従来とは全く違うスタイルの大学へとたどり着かれたわけだ。
・その流れから、多くの優秀なクリエーターが育っている。最近はほとんどの大作映画のCGシーンにデジハリ卒業生が絡んでいると言われている。ただ僕が今興味があるのは個人作家が、インデペンデントのスタンスのままでお金持ちになっていくような状況が作れるかどうかということだ。デジハリからブレイクした『スキージャンプ・ペア』は15万本も売れたらしい。
・ヒントをいろいろと頂いた。極私的なこだわりによって創られたアマチュア作品を市場に売り出そうとする時、商品としてどうブラッシュアップするか、そこでどうプロの手を入れるか、そのあたりが非常に重要のようである。
9月3日「境さん」
・東京国際映画祭の事務局で、局長の境さんとミーティング。共催イベント『東京国際CG映像祭』をお手伝いすることになった。
・経済産業省でコンテンツ産業振興の様々なプロジェクトを担当されていて業界ではとても有名な方だが、実はこの人が高校生の頃、見かけたことがあるということを知って驚いた。当時はアップルIIで市販用ゲームを作っている天才少年だった。
9月6日「仙頭さん」
・CESA主催の講演会にて、仙頭さんと対談。世界の映画賞を総なめにした、そして今でもなめ続けているスーパープロデューサー。
・「プロデューサー」というのは一体どういう仕事をする人なのか。どういう役割を負うべきなのか、という点を中心にいろいろと話を伺った。そこで「映画は会社であり、プロデューサーが社長、監督は工場長。出資者は株主と想定する」という説明が面白かった。映画とは一作ごとに一件のベンチャービジネスを起ちあげるということだ、と。
・仙頭さんはデジタルシネマへの取り組みも早く、そしてゲームへの理解も深い人である。これから、いよいよゲームのプロデュースも本格的に始められるということ。またその両側にまたがるものとして、ブロードバンドへの対応も手がけられているそうだ。門外漢の発言で申し訳ないが、映画のデジタル化(制作だけでなく興行まで)については、フィルムによる興行ネットワークが「既得利権」として重要なものになっている大手には不可能なことも多い。こういう人に期待したい仕事がとてもたくさんある。
・ところでこんな感じで日々業界有名人に会った話を書いていると、なんかIT系の大金持ちビジネスマンのblogみたいですね。
第178回
8月26日「なぜテレビ局が強いか」
・CG業界のリサーチを続けている。今日はTBSに行き、曽利文彦さんに会った。『ピンポン』『アップルシード』と続く快進撃で今や世界的な有名人だが、相変わらずとても腰の低い方である。自己紹介が「アイムソリ」だけに。
・現在進行中のプロジェクトについてなどいろいろお話を伺い、その緻密な戦略に感心した。デジタルの映画というと、一つ一つがどうしても長大な期間を費やす仕事になってしまうものだ。そういうところで計画的に着々とノウハウを蓄積しているところが尊敬に値する。デジタルシネマについてもフルCGアニメについても、ゼロからスタートしてちゃんとセールス実績を上げるところまでを経験したプロデューサー・ディレクターは数少ないのだ。
・どんなに勉強した人よりもカネ持ってる人よりもシステムを持ってる人よりも、実際に経験した人が強い。とすると、環境として今はやはりテレビ局が有利と思われる。
8月27日「見た”目”がいい」
・ではハリウッドの最新CGはどうだろう。というわけで『ガーフィールド』の試写を見る。
・あのコミックキャラクターをそのままのイメージで立体化し、実写世界で活躍させる。人間の俳優どころか、実物の猫や犬たちと絡ませてもまったく違和感がない。その理由は、造形の緻密さや動作の正確さなどではない。
・美しい毛並みを再現したり本当の猫のモーションをつけたりすることは、もうアマチュアのクリエーターでもできることなのだ。しかし、どんなにがんばってリアルにしても、なぜか死体が動いているようなものになってしまう……と悩んでいる人は、この映画のガーフィールドの目玉の動きを研究してみるといいと思う。人間の脳って生き物の目にすごく敏感なのである。その表現にさえ成功すれば、かなりデフォルメしたキャラでも生き生きと見せることができるという証明がここにある。
8月30日「降臨」
・スクウェア-エニックス社に行って、制作中の映画作品『アドベントチルドレン』のラッシュを見せてもらった。
・剣と魔法のファンタジーを未来SFと融合させた独特の設定を3D-CGによって精密に構築していく、例によってのFFワールドである。体温の低そうな、つるんとした顔のキャラクターたちがすごいテンションで戦い、愛し合い、苦悩し、冒険する。
・シナリオとしても、映像のテイストとしても、今回の試みはあくまでもゲームの延長のようだ。つまりゲームのムービーシーンを拡大して、一本の映画にしてしまおうという試み。そのためにシリーズの中で特に映画的な物語性が強い「FFVII」が再活用されることになったのだろう。この映画では、あのゲームの世界の2年後を描いている。復興しはじめた世界に、懐かしいキャラたちが2歳ずつ年を取って再登場する。
・同一の一画面の中にいろんなものを詰め込もうという「マルチメディア」の発想はすたれた。今後は、別々の画面からべつべつのコンテンツで一つの世界観を語るというやり方が有効になっていくだろう。デジタル上映のインフラがやっと普及してきて、ゲーム会社の映画界へのアプローチは期待されるところであるが、方法としてはこれが正道だと思う。
8月31日「久々に晄という字を見る」
・山手線各駅の広告を見かけ、ケータイ版の「FFVII」外伝『ビフォア・クライシス』をプレイしてみる。同じ「FFVII」の”2年後”以後を見せる『アドベントチルドレン』に対して、これは”6年前”の話。
・β版だし、当然ものすごく混んでいるが、プレイの価値あり。マニア以外には、オンラインゲームとしての特性が新鮮かも。ネットワークを介して他のプレイヤーとの同時アクションができたり、敵に捕らわれた時にネットにアクセスして仲間に助けを求める、なんてこともできる。またケータイに標準装備のカメラを使って身の回りのものを撮ればその写真が様々な種類のマテリア(戦闘時に、魔力の素になるエネルギー体)に変化するなど、新しいゲーム性も多数。