第408回

3月27日「貧しさゆえの豊かさ」

・『ベッドタイム・ストーリー』。子供の枕元で話したことが、翌日、現実の世界で起きてしまうという物語。映画の内容はとても楽しめたけれど、ここではちょっと別の感想。

・子供のために叔父さんがでっちあげる話はでたらめでオリジナリティがないため、どれも一昔前の映画にそっくりなものになる。その映像がいちいちハイクオリティーに仕上げられているからパロディとして成立するわけである。映画技術の進化が加速しているおかげで、少し前の映画が本物以上のレベルで作れてしまう。それを1本の中にたくさん取り込んでしまえる、というところに制作者のアイデアがある。

・このアイデア、デジタルコンテンツならどのジャンルでも、例えばゲームでも使えるだろう。ただし、技術の進化に物語の進化が追いついていない状況はちょっと寂しく感じられるのである。

3月28日「軽さゆえの広さ」

・iPHONEアプリの『メタルギアソリッドタッチ』をプレイ。シンプルさに驚く。

・ただし物足りない、という批判は的はずれなのだろう。iPHONEのようなプラットフォームに対してはどのゲームも最初は低価格で、お試しレベルの気軽さでプレイできるゲームとしてリリースされ、以降、柔軟に続編ないし拡張版が出される形になっていくのだと思う。

・iPHONE3.0なら、ゲームをタイトルごとではなくステージごとに販売するモデルもたやすい。インデペンデントの制作者ならば、試しに1部分だけ作ったゲームを安く販売してみて、それがある程度売れたら続きを作る、という戦略もありだ。

4月1日「エイプリルフール活用」

・この日付を活用して言っとく。渡辺浩弐と渡邊浩弐を混同している人がとても多いこと。理由は第1に、渡辺のことを知ったかぶりして渡邊と表記する人や、渡邊のことを面倒くさがって渡辺と表記する人が、多いせい。第2に、僕らがこの間違いをあえて訂正しようとしていないせい。ウィキペディアも、いつの間にか一緒の項目にされてしまってる。

・一方は、「ファミ通読んでましたー」とか言われて、いや僕はそっちのワタナベコウジじゃありませんと説明する機会が、そしてもう一方は、「PCランド見てましたー」とか言われて、いや僕はそっちのワタナベコウジじゃありませんと説明する機会があまりにも多く、二人とも、いいかげん面倒になってしまったのである。それで会ってみたら顔も結構似ていたので、話し合って同一人物だってことにしてしまえということになった。服も黒いものしか着ないとか、髪型も変えないとか、最低限の取り決めをした。

・仕事も混同して入ってくるので、もういちいち訂正せずに受けてしまうようにしている。間違ってきた分は相手にそのまま渡すようにしている。ワタナベコウジのつもりでワタナベコウジに来たものはワタナベコウジが受けてワタナベコウジに振って、ワタナベコウジのつもりでワタナベコウジに来たものはワタナベコウジが受けてワタナベコウジに渡すのだ。

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PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。