第六十四夜【後編】

【担当記者:スギナミ(32歳)】

 ウイスキーを片手に談笑しながら数手指し進める。あれ? プロ棋士との対局ってこんなに気楽なものだっけ。過去に何度かイベントや町道場で体験していたけど、私語は厳禁、真剣に教わらないとダメって空気があったような。

「ハハハ。このお店はこれでいいんですよ。将棋を強くなるのが目的じゃなくて、お酒を飲んでワイワイ遊ぶ場なんですから。駒の動かし方を知ってるだけでいいんです。棋力に関係なく幅広いお客さんに将棋の面白さを知ってもらいたいですね」(橋本七段)

 ふと周りを見渡せば、どのテーブルも和やかにおしゃべりをしながら盛り上がっている。こちらの席にも、フラッとお店に遊びにきたベテランプロ棋士が、冗談を飛ばしながら、会話に参加してきた。

「よぉ~し。じゃあお兄さんにはとっておきの詰め将棋を出しちゃうぞ。これはあの羽生名人が30分考え込んだ傑作だよ」

「エ~ッ。そんなの一生かかっても解けませんって!」

 気づけば対局の終わったプロ棋士や他のお客さんも寄ってきて、一緒になってウンウン考え始めている。その一方で、女性客のカラオケも始まり、店内の喧騒は増すばかり。

「兄は頭が悪いから東大に入った。私は頭がいいから棋士になった」とは、米長邦雄永世棋聖の有名なジョークだが、プロの将棋指しはみな、凡人には図りしれない異能の持ち主ばかり。そんな一握りの天才たちと、こんなに近い場所で一緒に飲んで笑える。そのことに新鮮な驚きと感動を覚える、将棋と酒に酔う夜であった。

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「ネット将棋では味わえない、生身の人間
とコミュニケーションしながら指す将棋の
楽しさを知ってほしいです」(橋本七段)

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この日は将棋仲間の他社編集Yと遊びにきた。プロ棋士は多面指し(複数のお客
さんを相手に指す)で対応してくれるので、大人数で一緒に楽しめる

【SHOGI BAR】

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住:東京都豊島区池袋2-47-7 フォーレセブンビル8F(池袋駅北口から徒歩3分)
電:03-5954-3417
営:19:00~24:00
料:チャージ3000円(女性は2500円)
1ドリンク無料 焼酎、ウイスキーほか各種ボトルも
http://blog.livedoor.jp/hassy_blog/

撮影/石川真魚 協力/吉野コージ

スギナミ 東京都生まれ。主な出没地域は中野、高田馬場の激安スナック。特技は「すぐに折れる心」
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