俺の夜
「実は前いた高級クラブで、某月9主演俳優に赤ちゃんプレイをせがまれたことがあって(微笑)」とか、「最近ハマってるものある?」、「実は毎号SPA!をこっそり買うのが趣味なんです(照)」、そんな会話があれば俺の仕事もだいぶ楽になるわけだが、周りのテーブルを見てもお目にかかったことはない。不勉強だし、自分の恥部は曝け出さないし狡猾で、面白くない。そんな店が大半だ(例外は大いに認める)。
とまあ長く愚痴っていますと、同僚が「それならアットホームないい店あるよ」と声をかけてきた。こいつも厄介で、アラサーなのにいまだに大学生ノリで飲んでるようなヤツ。基本的には信用していないが、店探しには困っていたし、背に腹は代えられない。行ってみることにした。
セルフだからこそ〝密〞な飲みが生きる

そう出迎えたのは、この店を含め五反田で3店舗を経営し、神出鬼没に現れるママ・平野アミさん。周りでは先客たちが既に乾杯していて、和気あいあいとした雰囲気だ。
「お兄さんもなにか飲むなら、ドリンカーから好きなものを取ってきてね。ウチはメニューもないし、お酒もセルフ! お母さんが家族に夜食を振る舞う感じで自由に営業しています(笑)。その分、料金設定を抑えているから安心してね」
確かに1時間1000円からの飲み放題制は格安。ボトルもカウンターに並べてあって、お客同士の助け合いで次の一杯を作る。だからこそこんなに賑わっているのか。
「私はもともとこの店の雰囲気が好きで、通っていたんですけど、カウンター内でお手伝いもするようになって(笑)。アミさんは近くの熟女パブで働いてたこともあって、トーク力や軽い下ネタが抜群。女性でも居心地いいですよ」スタッフのちくわさんがにこやかにお店への愛を語っていると、横の気前の良い常連さんがシャンパンを注文。
「今から五反田の男のコが好きな言葉を並べながら、開けるプレイをします。せ〜の、ローション、マット、シャンパーン!!(一同斉唱)」
アミさんのかけ声とともに、店内に笑いが溢れる。「これが夜の街・五反田で培った下ネタか〜」と内心感動しながら、自分も一杯いただき、目の前に盛られた母の味を食す。作り込まれた料理と店内に広がる無垢な笑顔に居場所を見つけたルイスでした。
「きになる母館ニューヨーク」
住:東京都品川区東五反田1-15-2 入山ビル2階
営:20時~翌4時(日によってバラつきあり)
休:毎週日曜
料:飲み放題60分1000円~(選べる種類で値段が変動)、おばんざいや煮焼き物は適量で1皿500円
後輩は入ってきたものの、それ以上に“後輩感”が漂っているせいか、まだまだ下っ端扱いされるルイスっす。とにかくやることも覚えることもまだまだ多いけれど、戦士にも束の間の休息は必要だ。しっぽりと酒を嗜みながら、なんなら美人もその場にいたら最高なんだよな~と、よこしまな考えをしていたところ、それを見事に満たしてくれる場所に思いが至った。ここはいっちょ行ってみるか。
「いらっしゃいませ」。雅な着物姿と優しい笑顔で迎えてくれたのが、高円寺「おさけと小料理 non」の国本美咲さんだ。カウンター7席という小さな店を、一人で切り盛りしている。華美すぎない装飾、ずらりと並ぶ日本酒の瓶、そしてふと目に入る「本日のおすすめ」が書かれた手書き文字の黒板。うん、独り身にも居心地がよさそうだ。
「住宅街という場所柄、一人で来る方が多いので、どの料理も量を少なめにしています。10月からはおでんも始めていますよ」 20代のうちに飲食店で独立するという目標を持っていた国本さんは、チェーン展開する和食店で店長経験を経たのち、3年前に26歳の若さでこの場所に店を構えた。
最近では、女性客、遠方からの客も多いという「non」。まあ、この柔らかい雰囲気には老若男女惹きつけられちゃうよなあ……。
おじさまから愛される女将の次の目標とは?
「いえいえ、そんな。『番組見て来ました』っていう方が今年に入って増えてきて」
実はここ、千鳥がMCを務める人気番組『相席食堂』でも取り上げられたお店。笑福亭鶴光からの“大(おお)セクハラ”を、華麗にかわしていた姿がずっと印象に残っていたのだった。
「私自身おじさま方からのちょっかいを楽しんでかわせるほうなので、鶴光さんの来店は嬉しかったですね! あの番組出演はいろんな意味で人生の転機になりました。噂を聞きつけてより多くのお客さまが来店してくださりましたし、そのなかから今の夫も見つかりまして(照)」
そんなドラマのような出来事が実際にあるのか……。国本さんと「non」の豪運には自分もあやかりたいところだ。今後のお店の展開についても国本さんは意気込む。「都道府県ごとに『non』のフランチャイズ店を出すのが夢です。各地を巡り、千葉の女将、埼玉の女将とその土地土地で特色が出せたら面白くないですかね?(笑)」
まさに“令和スタイル小料理屋”とでも言うべきチェーン展開も視野に入れている彼女。これからの活躍にも注目だ。
【おさけと小料理 non】
住:東京都杉並区高円寺南3-16-21
営:平日/16:00~22:00 土/14:00~22:00
日祝/14:00~21:00
休:火
電:03-5929-9948
料:瓶ビール700円、肉じゃが500円など
詳細はInstagram(@_non_sake_)まで
撮影/長谷英史
仕事柄、毎日のように初対面の人と顔を合わせる。経験の乏しい若造と侮られたくないあまり、妙に己を取り繕い、迷走モードにハマりこんではいないかという思いが頭をもたげる。だめだよ、夜郎自大。どうせすぐに見破られるって。自分に素直になるべく、お手本になりそうな渋谷のすっぴんカフェバー・NATURALIA(ナチュラリア)渋谷店を訪ねることにした。
うだるような猛暑に耐えて店内に入ると、キャストたちが、すっぴんだからこその飾り気のない清涼感あふれる笑みで迎えてくれた。暑気払いにはもってこいだ。
生ビールで喉をきゅっと締めたところで、女のコに視線を向けると、さすがすっぴんで勝負できる面々。容姿になんの異論もございません。
「すっぴんだから写真が盛れないんですよ」
入店1年のまりさんがぼやくが、このままのほうが絶対いいって!
キャストが施せる化粧はリップとまつ毛だけ。学校や職場を終えてから、念入りにメイクを落としてカウンターに立つという、他店とは真逆の現象が起きるほどだ。服装も彼女たちの私服で、一様におとなしめのいでたち。ロングTのまなみちゃんにファッションについて尋ねると「テニスとかスポーツをしているので動きやすいから」とのこと。ロジックもすこぶる自然体。アットホームを売りにするナチュラリア。メニューは、330円の焼きそばなどリーズナブル。お店イチ押しは、キャスト手作りの日替わり定食(550円)。
「彼女の家だったり実家にいるような気分を味わってもらいたいです」(まりさん)お化粧したいお年頃のはずの彼女たちだが、すっぴんで勝負に打って出るのはなぜか。大学生のまなさんが語る。
「コンカフェで働いてみたかったけれど、なんかハードルが高くて。みんなすっぴんだし気軽かなと。化粧をしないから肌荒れしないし、暑いこの時期はメイク崩れを気にしなくてもいいので楽なんですよ。化粧やメイク落としの時間を省けるので時間を有効利用できますよね」
飾らないキャストの気取らないトークが心地よい。ここのところ俺の両肩に重くのしかかっていた何かが、どこかに消えうせたような気分だ。
「来るつもりがなくてもなんか来ちゃうぐらい、お客さんの生活の一部になりたいですね」(まなさん)
ノーメイクだから目の下のクマは隠せないし、年頃だからたまにはニキビも出てしまう。それでも、包み隠さず客前に立つ純真な心意気に感心。よし俺も、真夏ぐらいは周囲の目を完全無視して、サンダルで出社してみるか!
【すっぴんカフェバーNATURALIA渋谷店】
住所:東京都渋谷区道玄坂2丁目25-17小島ビル3F
営:年中無休
電:03-6277-5673
料:10分440円(飲み放題付き)
チャージ 550円(会員登録により無料)、サービス料10%
詳細はツイッター(@naturalia_sby)まで