俺の夜
しかし、酒好きには定番のお酒ながら、まだ未履修のお酒がある。「テキーラ」だ。ショットで一気飲みした経験はあるが、その奥深い本質を味わったことも、流儀を教わる機会もなかった。そこで最後はテキーラ好きの“聖地”という六本木のバーの門を叩いた。
本物のテキーラは二日酔いしない!
今年10月に25周年を迎える「AGAVE」は、“リアルメキシコ”がコンセプトのアカベスピリッツバー。メキシコに何度も足を運ぶほど、テキーラを愛する店長の鶴巻大地郎さんが語る。
「テキーラなどアカベスピリッツはアロマが多様なので、当店では基本的にスニフターというグラスで提供しています。膨らみのあるグラスのほうが、ショットグラスより香りを感じ取りやすいので」
メキシコを中心に分布する多肉植物「アガベ」の中の「アガベ・アスール」という品種を原料とする蒸留酒「テキーラ」。クラブでパリピが飲むお酒、罰ゲームで飲むお酒のイメージが強いが、繊細な味わいを楽しめるお酒のようだ。
「私自身、初めて本格的なテキーラを飲んだときは、しっかりとしたコクや飲みごたえ、スムーズな飲み口に驚いた経験があります。テキーラはメキシコのハリスコ州テキーラという地域から生まれた蒸留酒。同じくアガベ原料の蒸留酒で人気が高まっている『メスカル』や元密造酒の「バカノラ」と「ライシージャ」などを合わせ、アガベスピリッツと総称しています」常時500種類以上のアガベスピリッツを揃える同店。ここでしか飲めない一杯を求めて訪れる客も数知れない。
「100%アガベテキーラは、アルコールが残りにくく、二日酔いしにくいのも魅力。ストレートでこんなにスイスイ飲める蒸留酒は、他にないと思っています」
普段の接客では客の好みを聞き、お酒をおすすめすることも多いという。早速、赤ワイン好きの私におすすめのテキーラを教えてもらった。
「赤いボトルが印象的な『トレスムヘレスのエクストラアニェホ』はいかがでしょうか。フルーティーな甘味が特徴でテキーラ初心者にもおすすめしやすい一本です。テキーラをグレープフルーツジュースとトニックウォーターで割り、ライムや塩を加えた『パロマ』など、カクテルもご用意しています。『パロマ』はこれからの季節にぴったりの一杯で、現地でも最もメジャーな飲み方のひとつです」連載は終わるけど、テキーラ片手に過ごす「私の夜」は、まだまだ始まったばかりだ。
「AGAVE」
住:東京都港区六本木7-18-11 DMビル B1
営:月〜木 18時半〜翌1時。金・土 18時半〜翌3時
休:日曜
https://www.facebook.com/AgaveRoppongi
ラストオーダーは閉店1時間前
撮影/鈴木大喜
飲み屋での最初の一杯は必ずハイボール。初めは糖質を気にせずにたくさん飲めるという理由だったが、最近ようやくウイスキーのおいしさがわかるようになってきた。せっかくなら風変わりなハイボールが飲みたい。
コンセプトは“煙”絶旨ハイボールに酔う
訪れたのは東中野にあるオーセンティックバー「Bar Smoke Salt」。扉を開けると、個性的なスーツ姿のマスター・佐々木剛さんが出迎えてくれた。
今年でバーテンダー歴30年という佐々木さんが、’09年に構えた同店では、こだわりのウイスキーカクテルや燻製料理を葉巻と一緒に楽しめる。
「僕は燻製も葉巻も20代の頃から好きだったので、ウイスキーと燻製と葉巻という“煙”をコンセプトに始めたお店になっています。ウイスキーの製法は燻製と非常によく似ていて、燻製との相性がすごくいいんですよね」 一番人気は店名にも冠している「アイラハイボール」(1200円)。「ラフロイグ」など3種類の“アイラウイスキー”を調合し、店内の樽で寝かせたお酒で作られたハイボールだ。早速1杯いただく。「アイラウイスキーはアイラ島という島で造られた少しクセのあるスコッチで、スモーキーな風味と少し塩味のあるテイストが特徴です。そもそもウイスキーは樽で熟成させて造られますが、『アイラハイボール』で使うお酒は、さらにお店で“追い熟”させているというかたちですね」
ウイスキーやハイボールのブームもあり、この一風変わったハイボールの新鮮な味わいが評判に。ウイスキーバーは数あれど、これほど強いこだわりを感じるお店はやはり珍しく、同店で定番の一杯となっている。
「もちろん、そのままボトルから出すお酒もいいんですが、『せっかくバーで飲んでいただくなら』という気持ちもあるし、単純にオリジナルの味わいを追求することが好きなんです。その意味では燻製などのおつまみも基本は自家製で。ここまで料理に入れ込むバーテンダーもなかなか珍しいかもしれませんね(笑)」
カウンター6席の小さなバーだが、薄暗い“穴蔵”のような店内は、なんとも落ち着く雰囲気。飲み会や仕事帰りに立ち寄る一人客が多いそうだ。 「現在取り扱っている葉巻は『ニカラグア』『ホンジュラス』『ドミニカ』の3か国の葉巻です。キューバ産より手頃な2000〜3000円の葉巻を多く揃えています。各々、リラックスしながら自由に過ごされる感じのお店なので、ウイスキーに詳しくない方や女性の方も気軽に立ち寄っていただければ」他にも個性的なハイボールやウイスキーカクテルが充実している同店。常連になればウイスキー通に近づけそうだ。
「アイラハイボール BAR Smoke Salt」
住:東京都中野区東中野1-14-26 高山ビル
営:18:00〜24:00
休:不定休
料:チャージ700円(現金のみ)一番人気は店名にも冠している「アイラハイボール」(1200円)。カウンター6席のオーセンティックバー
そこで今回は、豊富な日本酒ラインナップが自慢の居酒屋「ふくべ」へ。思い切って老舗酒場の敷居をまたいだ。
異彩を放つ巨大な四斗樽に心ひかれる
店内は1階がカウンターの9席、2階には団体向けテーブル席が設けられている。バックバーには42種の日本酒がズラリ。中でもカウンター奥に鎮座する菊正宗の四斗樽が、ひときわ存在感を放っていた。
創業84年。現在は創業者の孫にあたる三代目が店主を務める。
「初代は、地方から出てくる労働者の方たちのために『少しでも故郷を思い出して仕事をがんばってもらいたい』という思いで立ち飲み屋から始めたといいます。そのため、ウチでは全国の日本酒を取り揃えています」
これだけ種類豊富となれば、どれから飲み始めればいいのか見当がつかない。そこで三代目におすすめを伺った。
「そう聞かれたら全部おすすめですね(笑)。なので、重めかさっぱりめ、甘めか辛口か――というように、お好みをお伝えいただければそれに応じてお酒をお出ししますよ」
まずは、自分好みの“重めで辛口”をリクエスト。すると三代目が純米酒の菊姫を取り出し、徳利に注いでくれた。
「お燗で飲むのがおすすめですが、まずは常温でお酒本来の味を試してみてください」
おちょこに注いで一口飲むと、華やかななかにも切れ味のある風味が口いっぱいに広がった。ここで日本酒に合いそうな、たらこのちょい焼きとさつま揚げをオーダー。半生状態のたらこは塩気が効いていて酒が進む。
今度は前々から気になっていた菊正宗の四斗樽に挑戦することにした。
「菊正宗は冷酒と常温とお燗でお出ししています。まずは、冷酒とぬる燗を試してみてはどうですか」
三代目に勧められるまま、飲み比べをしてみる。冷酒はキリッとしたのど越しで飲みやすい。かすかに樽の香りも感じられる。続いて40℃に温められたぬる燗に口をつけると、冷酒よりもさらに樽の香りが深くなり、味に奥行きが生まれた。
「樽酒は日々熟成されるので、量が底に近づくほど樽の風味が強くなります。一升瓶40本分が入っている四斗樽は、当店では約1週間ほどで空になる人気のお酒です」
普段は常連と新規客がほぼ半々の割合で訪れるというふくべ。気さくな店主との会話を楽しみながら日本酒の知識も学べる。ひとり日本酒飲みデビューに最適なお店だった。
「ふくべ」
住:東京都中央区八重洲1-4-5
営:16:30~22:30
休:土日
料:日本酒は一杯850円~、菊正宗樽酒お土産用2000円、おでん830円、しめ鯖780円、くさや830円。週末はカウンター席がすぐ埋まるため、事前予約がベスト
撮影/鈴木大喜