俺の夜
数か月前、久しぶりに訪れた歯科医院でショックな出来事があった。虫歯を放置していた結果、30代にもかかわらず、部分入れ歯になってしまったのだ……。だって歯の治療は怖いし、通うのが面倒なんだもん。自業自得ではあるが、僕の心と歯茎には、ぽっかりと穴が開いてしまった。ポリデントを使って洗浄するたびに切なくなる。
会話を大事にして苦手克服のきっかけに
その後は定期的な検診をすすめられたものの、日中は仕事があるので予約はたいてい早朝。なかなかモチベーションが上がらない。そんな僕に朗報。秋葉原に深夜23時まで診療している“萌え歯医者”が開院したというニュースが飛び込んできたのだ。
7月1日、大通り沿いに誕生した「アキバ歯科」。院内に足を踏み入れると、待合室にはテーブル席がズラリ。行き来する女性スタッフたちはかわいらしいメイド服。さっそく店長……いや、院長の湯川譲治医師に話を聞いてみた。
「7年前から秋葉原や新宿のコンカフェに通っていて。時間帯もコンカフェに合わせたんですよ。あとは、そこで働いているコが早起きしなくても来られるように14時からの診療にしました。僕はコミケのサークルを手伝うぐらい、全力でオタクですよ!」歯科診療の怖いイメージを変えていきたい
歯科衛生士や歯科助手などのスタッフたちもオタクのカルチャーに理解があり、現役のコスプレイヤーやアイドルとしても活動しているコが多いのだという。しかしながら、可能な治療内容は虫歯や歯周病、インプラント、ホワイトニングや矯正など、通常の歯科医院と変わらない。特筆すべきは「歯みがき練習」だ。推しのスタッフと歯列模型を使ってブラッシングの練習ができるのだとか。そんなわけで、今回は猫宮かなさんにお願いしてみた。歯みがきのコツをレクチャーしてくれるのだが……。
「私はコスプレやアニメが好きなので、患者さんと趣味の話をすることも多いです。推しのスタッフ目当てや、全員のチェキを集めるために通ってくれる人もいますよ」歯みがき練習のきらきらセット3000円では当日一緒に撮影したチェキにお絵描きまでしてもらえる。そんなコンカフェ的なメニューについて、湯川医師が言う。
「歯科恐怖症の方々に来てもらえる方法はないものかと。秋葉原という場所や時間帯、かわいい女のコがいる……きっかけはなんであれ、会話が生まれたら信頼関係が築ける。その結果、苦手意識を克服して、歯科診療につながるのではないかと考えました」今までの歯科医院にはない“推す”楽しみがある。僕はスタッフのチェキをコンプリートすることを決意。通院のモチベーションが俄然湧いてきたのであった……!
【アキバ歯科】
住:東京都千代田区外神田4-4-3 小木曾ビル2F
営:14~18時、19~23時
休:火・水
電:03-5577-5776
料:歯みがき練習(ぴかぴかセット1500円、きらきらセット3000円)
※詳しい情報はTwitter(@akiba_shika)からチェック!
「あそこの女将さんはね、美人で有名だよ!」
JR京浜東北・根岸線の本郷台駅からタクシーに乗り込み、目的地を告げると、運転手のおっちゃんがこう言ったのだ。小料理屋「華々や(かかや)」は、駅から10分程度の長沼町にあった。のれんをくぐると、店主の越智ゆき子さんが出迎えてくれた。
「先日は、うちの娘が本当にお世話になりました」
じつは第五百五十九夜で紹介した元アイドルのダーツバー店長・越智りんかさんのお母さまなのである。横浜で小料理屋を営んでいると聞き、興味を引かれたのだった。料理も人生相談も“ママにおまかせ”
開店前、料理の仕込みに精を出していたゆき子さんが「ちょっと休憩」と言ってカウンター席の端に腰かける。その仕草は、まるで壇蜜さんのように色気がある。
ゆき子さんはタピオカの移動販売などを経て、料理が得意だったことから約6年前に小料理屋を開いた。小上がりにはちゃぶ台が並び、どこか懐かしい雰囲気。常連客は中高年だけではなく、20代も少なくないそう。今や口コミで広がり、戸塚や大船からも多くの人が訪れるという。「第二の家みたいに思ってもらいたい。嫌な出来事があったときもココでワンクッション置いてもらって。スッキリしてから家に帰ってほしい」
ゆき子さんは店をひとりで切り盛りしているが、混雑時は「お客さんに助けてもらう(笑)」とのことで、普段のアットホームな様子が伝わってくる。料理は大皿がその日のオススメで500円程度だが、定番メニューはなく、基本的には“ママにおまかせ”スタイルなのだとか。「お客さんに何が食べたいのか気分を聞いて季節に合わせた食材で作ることが多い」
僕は出してもらった海鮮ユッケを肴に、夏日で渇いた喉にハイボールを流し込む。
ミセスコンテストに出場「挑戦に年齢は関係ない!」さて、そんなゆき子さんだが、巷の評判に違わぬ美しさ。昨年ミセスコンテストに出場し、ファイナリストに。そして見事、賞を受賞した。
「コロナ禍で店を休業中に新しい挑戦がしたいと思って。年齢にかかわらず、自分を磨いて輝き続けることで、たくさんの人に影響を与えたい」ミセスコンの出場がきっかけで、タレント・荒木師匠の婚活用アパレルブランド「アプレ・ガール」のモデルも務めることに。今後は演技の仕事や、小料理屋でたくさんの人生相談にも乗ってきた経験から婚活・恋愛塾を開く予定とか。そうこうしているうちに、開店時間を迎えた。同時に常連客らしき男性が入ってきた。強く美しい女将のファンになる気持ちがわかる。今度来るときは、ゆき子さんに仕事や恋愛などのアドバイスをもらいに来よう(笑)。
【華々や(かかや)】
住:神奈川県横浜市栄区長沼町281-1 センターショップ102
※奈光谷(なこうやと)バス停前
営:19:00~24:00
料:予算3000円程度~
電:090-4099-8305
(※現在は予約優先での営業のため、事前に要TEL。ショートメールでも対応可)
撮影/長谷英史
ステージ上で光り輝くアイドルたち。ひたむきな姿が多くの観客を感動させる。だが、現役として活動できる期間には限りがある。人生は長い。彼女たちは引退後、どのような道を歩むのか。今回は、歌舞伎町で自分の店をオープンさせた2人の元アイドルを紹介しよう。
自分やお客さんに“居場所がある”のは素敵
現在、ダーツバー「SEKAIDE1BAR」で店長を務めているのは越智りんかさん。アイドルグループ「イケてるハーツ」の1期生である。活動期間は「1953日でした」と即答するほど走り抜けたが、次第に将来の夢が芽生えていったと話す。「母親が地元で小料理屋を営んでいて。自分にとってもお客さんにとっても“居場所がある”のは素敵だなって」
アイドル活動中に食品衛生責任者の資格を取得し、引退後すぐに店を開いたが、その直後にコロナ禍が訪れた。「当然、営業できなくて悔しい日もありました。でも、ファンのみんなが送り出してくれたし、イケてるハーツの現役メンバーたちが頑張っているので。私も成長した姿を見せたいと思ったんです」
店名の由来はアイドル時代のキャッチコピー「世界で一番」、壁の色は担当カラーだったビタミンイエロー。眺めるたびに勇気が湧いてくる。「最初に大変な時期を経験したから、ここからは楽しみしかない。店ではダーツを通して、アイドル時代のファンもそうではないお客さんも仲良くなっている。みんなに“新宿に来たらセカイに行こう”と思ってもらえるように仲間たちと盛り上げていきたい」
【SEKAIDE1BAR】
住:東京都新宿区歌舞伎町1-10-12 豊ビルB1
営:20時~翌5時
休:月
電:03-6233-9933
料:チャージ550円、ドリンク880円~、ダーツ1ゲーム100円、カラオケ歌い放題
※詳細はTwitter(@sekai_21)をチェック!
アイドル引退でつながるバトンも
2人目は、アイドルグループ「NiANiHiL」のメンバーだった大下奈央さん。現役の大学生でもあるが、“恋愛シミュレーションゲーム”をテーマにしたコンセプトカフェ「駆け抜けて青春」のオーナーになったのだ。
「大学を留年してしまって。出遅れているなかで爪痕を残そうと思って昨年、800万円の借金をして店を開きました。そしたら学校に行かなくなって再び留年。今、3度目の2年生です(笑)」それでも本人は「なんとかなる」と前向き。キャストには今後アイドルとして活動していくコが多いという。
「私はあんまりうまくいかなかったけど、だからこそ“これはしないほうがいい”というアドバイスはできる。反面教師ですけどね」
えーりんさんは店で働き始めたことが人生の転機に。「自分のことが好きになれたのでアイドルになろうと決意しました。年齢的にも限界がある職業だと思うので、今やりたいことをやろうって」
終わりがあれば、始まりがある。歌舞伎町のネオンが彼女たちの新しいステージを煌々と照らし続けていた。 【駆け抜けて青春】住:東京都新宿区歌舞伎町2-28-2 東松ビル4F
営:18~23時
電:03-6205-5780
料:1時間3000円、3時間7000円(飲み放題)、テキーラ100円、クライナー300円
※詳細はTwitter(@kakenukete_offi)をチェック!
撮影/長谷英史