俺の夜
気づけば「まん防」も2か月。来週21日には、さすがに解除されるはず――そんな期待に胸を膨らませるも、ひとつ問題がある。「最初の夜をどう過ごすか問題」だ。
たとえるなら、オナ禁一発目。間違っても、うっかり入った微妙な店で残念な夜を過ごしたくない。とはいえ、もう40代だ。アッパー系も違うし、かといって落ち着いたバーも違うし……。と、ここで天啓がひらめく。ニューハーフだ!!
コロナ禍で夜の店で働く女性たちへの風当たりは強かった。「不要不急」「昼間に働け」などと叩かれた。だが、世の中が変わりつつあるとはいえ、まだニューハーフが昼職に就くハードルは高い。履歴書には性別欄もある。この2年で畳まざるをえなかった店も多い。数少ない自分らしくいられる場所を奪われる痛みは、軽々に推し量れるものではない。
歌舞伎町で「bar REIKA」を切り盛りする篠崎麗嘉さん(31歳)は、20代半ばまで福岡で男性美容師として働いていた。
「自分が何者なのか、気づくのは遅かったですね。ただ、このままじゃ嫌だと思い立ったら、そこからは堰を切ったようでした。工場で女性ホルモン代を稼いで、歌舞伎町に来てから豊胸したり、一気に変わりました」
イケメンから美女へ、瞬く間に夜の蝶として羽化した麗嘉さんだが、コロナ禍で店が開けられない間はUberで働いていたことも。「家賃だけと勘違いされるけれど、カラオケ機器のリース代や税金とかあって、小さな箱でもギリギリなんです。特にニューハーフのお店は深い時間に賑わうから、まん防は実質営業停止と一緒。私はまだしも、手伝ってくれていたスタッフのコは何の保障もないし、申し訳ないですよね。負けず嫌いだから、カラ家賃を払いたくなくて『チャリ漕ぐしかねえか!』と腹をくくったけれど、それでも最初にリュックを背負ったときは、少し泣いちゃいました(笑)」
若いコより30代のほうが美人ニューハーフは多い
片や東京マラソンで何万人と集め、イベントの人数制限も解除される方向で、夜の店の我慢も限界が近い。そんな麗嘉さん、もうひとつ世間の風潮に不満があるそう。
「最近、中途半端な女装が増えましたよね。中身は男だったり。否定するつもりはないけれど、ただ、キレイじゃないコが多くて。とりあえずメイクしたら女でもイケるとか、女扱いしてほしいって、それは性別を問わず図々しいじゃないですか。私自身は、キレイじゃない“オカマ”と一緒にされたくないって気持ちがあって、自分のことをゲイだと勘違いしてましたから。今はハードルが下がった分、雑なコが多い。周りを見ても、若いコより20代後半から30代のニューハーフのほうが美意識高くて、キレイな人が多いと思います」こうして遊び好きを悩ます「まん防明け一発目問題」は、熟考の結果、「30代美人ニューハーフ」という結論に至ったところで私の夜もお開き。「ジュクしかやりませんよ?」というやさぐれを受け入れてくれたHデスク、取材先の皆様、同好の士である読者の皆様に感謝を込めて。また、新宿の片隅で同じ夜を過ごす日まで!
【bar REIKA】住:東京都新宿区歌舞伎町2-20-11 玉野ビル2F
営:21時~
休:日・祝
料:席料5000円(時間無制限、ボトル制、割りもの1000円)、飲み放題(焼酎・ウイスキー・割りもの)は90分5000円。
TEL:03-6233-8157
※詳細や最新の営業情報はTEL、もしくはinstagram(@reika.mika3)
撮影/宮下祐介
再び、時短営業だ。いつも22時すぎから飲み始める自分にとって、「飲むな」と言われているようなもの。早くから開けている地元の飲み屋を通りがかると、リスク高めなご年配の方々で賑わっていたりする。どないやねん!!
というわけで、「夜に飲むなってんなら昼から飲んだろ!」と歌舞伎町の「BAR DOQUDOQU」に駆け込んだ。通常時は365日ほぼ24時間営業というイカれ……いや、優しさに溢れた店である。嫌なことぜーんぶ、さっさとお酒で忘れちゃわないと!朝でも昼でも、店に入ればそこは“この世の果て”
東宝ビルのさらに奥、ビルの4階の扉を開けると明るい街から一転。禍々しい空気が充満する薄暗い店内に、一瞬頭がバグりそうになる。オーナーの四道氏が7年前にオープンしたこの店は、エログロ、サブカルなんでもありのギャラリーバー。アングラカルチャーの展示会が頻繁に催され、スタッフもその世界の住人たちだ。
元々常連客だったというアンソニーさんは、グラインドコアバンド「DISGUNDER」のフロントマン。
「コロナ禍でバンドやめた人も結構いますね。食えないだけじゃなくて、“おうち時間”で人間らしい幸せに目覚めちゃって(笑)。でも、私は逆にやめる人が増えるほど『絶対続けてやる!』って燃えてます。ドッジボールの最後の一人になりたいタイプなんですよ」寺山修司や丸尾末広の遺伝子を継ぐ劇団「虚飾集団廻天百眼」の女優・紅日毬子さんも「女優と酒場は絶対やめない」という。
「ただ、稽古や舞台で決まった時間に働けないので、こうやって自由にスタッフとして立てる場所があるのは、本当にありがたいです」客層もサブカル系からド変態までめちゃくちゃ。コロナ禍で消えかけるアングラの灯を、歌舞伎町の片隅で守り続ける店でもある。
煙草を吸いながら仕事できる日が再び骨髄さんは特殊造形やメイクアップに没頭し、店で個展を開いたことがきっかけでスタッフに。
「最初は人形作家の中川多理さんの作品に影響を受けて、学生時代はマリリン・マンソンやティム・バートンも訪れた『マリアの心臓』という人形博物館に通い、この世界にどっぷりハマってしまいました」花音菜さんは、多摩美出身で現在は神楽師として活動する。
「学生時代から『月蝕歌劇団』という劇団で舞台女優をしていて、神楽の師匠に弟子入りした途端にコロナ禍。現場も減ってしまったので、最近は植木屋も始めました。厳しい状況だけど、少しでも神楽の魅力を伝えていきたいんです」そんな濃い面子が揃うが、仕事が残ったままじゃ楽しく飲めない……。でも、無問題!
高速Wi-Fi完備で仕事もできるし、なんなら煙草も吸える。「煙草片手に仕事」という昨今絶滅しつつあるシチュエーションをもう一度味わえるとは! やっぱり捗るんですよねぇ……。 そして、仕事片付けたら速攻お酒飲めるなんて、最高すぎやしませんか? スタバでマックブック開いてる場合じゃねー!(したことないけど)自分、明日からここに籠もります。いつものように編集部にいなくても、ちゃんと仕事はしてます、編集長!
【BAR「DOQUDOQU」】
住:東京都新宿区歌舞伎町2-39-2 三幸ビル4F
電:03-6273-8765
営:ほぼ24時間(日によって営業していない時間もあるので詳細はTwitterで)
休:無休
料:チャージ500円、ドリンク500円~
※詳細や最新の営業情報はTELもしくはTwitter(@BAR_DOQUDOQU)にて
撮影/芝山健太
ロアビル解体、リモートワークの定着――いつの世もバブリーな港区・六本木も、時代の波には抗えないのか……。自粛期間を経てようやく通常営業に戻りつつあるこの街を、久しぶりに訪れてみる。
年末年始、ミッドタウンやヒルズはイルミネーションのインスタ映えを狙う観光客で相変わらず賑やかだ。一方、夜の街はやはりどこかおとなしい。ワールドカップの日本戦の後、先輩の命で慣れないナンパに悪戦苦闘した駆け出し時代の苦い記憶が甦り、今となっては少し寂しくもある。シャンパン乱舞の古き良き「ザ・六本木」
そんな思い出に浸り、勝手にしんみりしていたが、「ヤバいプロパリピがいる」と連れられていった「RiG@R4F」でたまげた。DJブースにポールダンス、そして鬼のように並ぶシャンパンの空き瓶。
「ちょうど一昨日と昨日がスタッフの誕生日イベントで、さすがに胃がやられました(笑)」と店長のRINKOさんはあっけらかんと語る。店自体はカウンターとボックス4つほどでそこまで大きくはない。
女性スタッフも基本はRINKOさん一人。それでいて、2日で開けたというシャンパンはざっと50本近くはある。それが軽い胃痛で済む世界……やはり今も六本木は魔境だ。
もともとロアビルに入っていたこの店、客層も音楽関係者などを中心に古き良き六本木カルチャーを知る人々が集う。界隈では超有名人というRINKOさんの半生も波瀾万丈だ。
「『ターミネーター』に憧れて、美大を出て特殊メイクアーティストになったんです。でも、きらびやかなスクリーンとは対照的に、現場はガチの肉体労働。しかも、メイクで使う薬剤にアレルギーが出ちゃって、結局、ぼろぼろになって夢を諦めました」
特殊メイクからOLそして、夜の蝶へ
燃え殻になり実家に戻ったRINKOさんだが、たまたま歌舞伎町の夜の店のオープニングスタッフにスカウトされる。それが、今や有名店の「ギラギラガールズ」。
「メイクアーティスト時代は日給8000円で交通費自腹、現場は早朝から深夜までとかだったから、『飲んで暴れてお金もらえるなんて超ラッキー!』って感じ(笑)。そこで、見よう見まねでポールダンスも覚えました。ただ、生活は酒カスそのもの。結局1年半くらいやってから、広告代理店に就職したんです」
OL生活を送っていたRINKOさんのさらなる転機は、30歳を過ぎた頃に訪れた。「知り合いの経営者からロアビルにお店を出す相談をされて、『いいんじゃないっすか~。飲み行きますよ』なんて言ってたら、『客じゃなくて、店長やってくれない?』って。ちょうど転職も考えていた時期だったので、『ま、いっか』と今に至るという(笑)。もともと六本木は美大生のときにバイト代を握りしめて遊びに来ていた街。当時は、ドリンクチケットを奢ってくれる“ドリチケ配りおじさん”がいて、店を始めたら、意外と私のことを覚えていて来てくれたり、不思議な縁で繫がってる感じですね」
マジもんの港区女子は、ヤバい、エグい、半端ない!一晩でタクシーに2度轢かれるなど、そこからRINKOさんが六本木で残してきた伝説は枚挙に暇がない。激動の半生とともに紡いだ歴史があるからこそ、時代が移り変わっても彼女を慕い、「たまにはカツアゲされてやるよ」とシャンパンを開ける馴染みの客も絶えない(お店自体は超リーズナブル。RINKOさんを“姉さん”と慕う女性客も多い)。
「太く短く。いろいろお声がけいただいたりしますけど、今はこの場所で、六本木の文化と人を盛り上げていくのみです!」そんな真っすぐな彼女に会いに行けば、どんな疲れも悩みも吹き飛ばしてくれる気がした。
【RiG@R4F】
住:東京都港区六本木3-15-22 陽光セントラルビル4F
電:03-6434-9230
営:20:00~翌5:00
休:日祝
料:ドリンク800円~
DJブース、カラオケ、ダーツあり。DJイベントも不定期開催。
※詳細や最新の営業情報は電話もしくはTwitter(@RiG_roppongi)にて