日本に移住した理由は麻雀!? 有名ゲームのアメリカ人翻訳家
全世界で170万本をセールスしたというゲーム『ダークソウル』。その前作『デモンズソウル』も含めてこのシリーズの英語翻訳を務めたライアン・モリス氏(37歳)は日本語がペラペラで、自らを「オタクで草食系男子」と語るアメリカ人翻訳家だ。
ライアン氏は米シアトル出身。中学生だった15歳のときに、地元の古本市のようなイベントであるアニメの海賊版ビデオに出会い、衝撃を受ける。
「アニメ版の『AKIRA』なんだけど、『なにこれ!?』って50回以上は観たぐらいハマったね。字幕も何もなかったから、キャラクターたちが何を言っているのかを知りたくて日本語を勉強しはじめたんだよ」
アニメにハマって日本語に興味を持つ、というところまでは外国人オタクが日本通になっていく黄金パターンのひとつだ。だが、彼が日本に住んで10年にして、とある麻雀リーグで2度も優勝を果たし、「麻雀世界選手権」でアメリカチームのキャプテンを務めたほどの麻雀の腕前と聞けば、「このアメリカ人、一体何者だ!?」と俄然興味が沸いてくる。しかも、よくよく聞けば、日本に住むようになったのは「プロの麻雀士と麻雀を打つため」だったというから驚きだ。
麻雀自体はアメリカにも存在するというが、ライアン氏が日本に来る前に麻雀に触れ合った経験といえば、「『ジョイ・ラック・クラブ』という映画の中で観たぐらい」だそうで、本格的に麻雀と接したのは1995年に大阪大学へ留学していた大学生のときだ。
「学生会館で麻雀しているのを見てて、興味があったんだよね。でも、最初は声をかける勇気がなくて。で、当時、日本に来たてでどこでご飯を食べていいかもわからなくて、毎日『餃子の王将』でラーメンとギョーザとコロッケばっかり食べていたんだ。そしたら、店長と仲良くなって、話の流れで『麻雀だったら、店の2階で従業員とやってるよ。やってみる?』ってことになって、初めて麻雀をやったんだ」
だが、残念ながら王将の店長さんは「麻雀を教えるのが下手だった」らしく、ライアン氏は本で麻雀のルールを必死に覚え、大阪大学の古美術研究サークルの学生たちと麻雀を打つようになる。やがて、1年間の留学を終え、シアトルに戻ったライアン氏は麻雀普及活動を開始。
「アニメにハマったときも、僕はシアトルで一生懸命オタク文化を広げる活動をしていたんだよ。オタクのリーダーだったんだ(笑)。そのときの仲間を中心に、麻雀を教えていって。もともと日本の文化に興味のある友人たちだから、何人かは熱心に覚えたけど、シアトルでは麻雀の人気は全然出なかったね(笑)。のちに、このメンバーの中から『麻雀世界選手権』に出る選手が6人育ったけど」
興味深いエピソードとしては、シアトルには「シアトル囲碁センター」というエスタブリッシュな人々が集まる囲碁クラブがあり、麻雀の布教活動をするうちにメンバーと出会い「日本のゲーム文化に興味があるんだったら囲碁をやらないか」と誘われたのだとか。しかし、「僕は不確定要素のないゲームはやらない」と囲碁に興味を示すことなく、ネット麻雀の「東風荘」で毎晩日本人と対局を続けたライアン氏。そのうちに東風荘で「R=2300」(「R」とは東風荘での強さを表す数字だそうで、R=1850以上だと「超上級卓」に入れるのだとか)という「トップクラス」(ライアン氏談)の成績を誇った。
「これで、僕は強い!と思ってね。当時、シアトルで『ドラゴンクエスト7』の翻訳チームで仕事をしていたんだけど、仕事が終わったらギャラの50万円だけを握り締めて、日本へやってきたんだ。どうしても日本のプロ麻雀士と打って、実力を試してみたくてね」
2001年、東京へやってくるなり、雀荘に出入りするようになるライアン氏。何度か顔を出しているうちに縁ができ、念願のプロ麻雀士と初めて対局を迎える。
「これが、ボロボロでさ。コテンパンにやられたよ。やっぱり、ネット麻雀で強いからって実戦では全然通じない、ということを知ったよ」
だが、雀荘に出入りしては「九種九牌(麻雀のルールのひとつ)はありますか?」と尋ねるアメリカ人はやはり話題になり、徐々に麻雀界との接点ができていく。翻訳の仕事の傍ら、2002年と2007年には「麻雀世界選手権大会」のアメリカチームキャプテンを務めたり(ちなみに世界選手権の公式ルールの英語翻訳もライアン氏の仕事だという)、麻雀雑誌での連載が始まったり、と「麻雀を愛するアメリカ人」はその世界では有名な存在に。
同時に麻雀の腕もメキメキと上達し、雑誌の企画で麻雀プロ試験を受けて見事合格するほどに(ただし、「僕は自由でいたいから」とプロにはならなかった)。2009年には有名麻雀漫画家の片山まさゆき氏が主宰する麻雀団体GPC(グッド・プレイヤーズ・クラブ)の著名人リーグに入団。2010年、2011年と2回連続で優勝している。
「麻雀は、もちろん中国発祥のゲームだけど、育てたのは日本だと思っているんだ。日本のルールがやっぱり一番面白いしね。どんなに戦略を練っても、何が起こるかわからない、常に向上心が持てるゲームだよ、麻雀は。これからもずっと楽しみ続けると思うよ」
日本とアニメと麻雀を心から愛するライアン氏。当面の目標は「もちろん、GPCで今年も優勝することだよ!」と笑顔を見せていた。
※【後編】では、そんなライアン氏に「麻雀の勝ち方」を聞いてみた
⇒https://nikkan-spa.jp/225778 <取材・文・撮影/織田曜一郎(本誌)>
⇒https://nikkan-spa.jp/225778 <取材・文・撮影/織田曜一郎(本誌)>
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