鳩山クリミア訪問に同行した一水会・木村三浩代表が語る“真相”

「極めて軽率であり、コメントする気にもならない」 菅義偉官房長官がこうため息交じりにボヤいていたのも無理はないのか……。

鳩山氏クリミア訪問

「美人検事」と一時ネット上で話題になった、クリミアの最高検察庁検事総長、ナタリア・ポクロンスカヤ氏の右脇に立つのが民族派新右翼「一水会」代表の木村三浩氏(撮影/池田剛久)

 3月10日、久々にテレビカメラの前にお目見えした鳩山由紀夫元首相が、今度は、新たな「欧州の火薬庫」とも称され、昨年3月にロシアに編入されたクリミア半島を電撃訪問。もはや“お家芸”とも言える友愛外交をやってのけていたからだ。

 鳩山氏といえば、沖縄県・尖閣諸島を巡って「領土問題は存在しない」とする日本政府の立場を無視し、「係争地として認めるべき」「日本が盗んだと思われても仕方がない」などと発言したことで、バッシングを受けた過去もある。今回は、欧米諸国とロシアが対立する新冷戦の象徴・クリミアで、「クリミア併合は必然かつ肯定される」と持論を展開したものだから、これには、欧米と足並みを揃えてロシアに経済制裁を課している日本政府だけでなく、米国務省もすぐさま「深く失望している」とコメントを出すほどの騒ぎとなったのは周知の通りだ。

 果たして、鳩山氏はなぜこのタイミングでクリミアを訪れたのか?

 その謎を解く鍵は、今回の騒動を報じるニュース映像に隠されている。実は、上に掲載した写真をご覧頂ければわかるように、「クリミア政府」の高官らと仲睦まじく記念スナップに収まる「視察団」の中に、今やリベラル論壇の重鎮とも言えるジャーナリストの高野孟氏や、民族派新右翼「一水会」の木村三浩代表が写り込んでいたからだ。

 高野氏は、鳩山氏が代表を務めるシンクタンク「東アジア共同体研究所」の理事も務めているため行動を共にするのも頷けるが、一方の木村氏は、昨年1月に辞任した猪瀬直樹東京都知事と徳洲会を繋いだ「仲介者」として一時取り沙汰された人物。戦後日本のアメリカ追随体制の打破を目指し、民族自主独立を訴える彼が、なぜ、今回の視察団に同行していたのか……。3月20日に帰国したばかりの木村氏を直撃した。

――今回、鳩山氏の「視察団」に合流した経緯は。

木村:私が昨年2度クリミアを訪れているということもあり、鳩山さんと高野孟さんがやっているインターネット番組に招かれ、自分の目で実際に見てきたことを話したのが訪問を促す、そもそものきっかけになったのです。西側のメディアは日本も含めて「独裁者・プーチンが力による現状変更を行おうとしている!」「ロシアへの編入に賛成したクリミアの住民投票はロシアの圧力によるものだ!!」などと批判を繰り返しているわけですが、実際にクリミアの人たちの話を聞くとまったく様相が違って見えてくる。私の視察報告に、鳩山さんも「現地を見ずしてとやかく言うのはいかがなものか」という認識を持ったのでしょう。欧米に毒されている今の日本の現状から、批判が出ることも予想していたと思いますが、体を張って現地を見ることが今後の日本のためになると考えて、今回の訪問に至ったということです。

――昨年、ウクライナ情勢は混迷を極めていたが、「2度の訪問」とはどのタイミングでのことか。

木村:最初の訪問はマレーシア航空機撃墜事件直後の8月でした。当時、欧米各国では『ウクライナの親ロシア勢力の仕業』と断定的に報じられていましたが、いまだに撃墜犯が誰なのかはわからないまま……。これは、グルジア紛争のときと同じようなことが起きているのではないか? という疑問が拭えませんでした。

 実は、木村氏はソ連崩壊後にグルジアから独立したアブハジアや南オセチアの現状視察にも行っている。かつて、ソ連のスターリンによってグルジアに統合された両民族はロシアへの帰属を求めていたものの、グルジア統合主義者による迫害を受け、これがグルジア紛争に発展。西側メディアはロシアの圧力によるもので、現地では虐殺まがいのことが行われていると断じていた。

木村:グルジア紛争はその後、紛争調停が入るなど沈静化しましたが、2008年の北京五輪開会式直前、世界の注目が五輪に集まるタイミングで、グルジアは南オセチアに再び攻撃を仕掛けた……。グルジアのサアカシュビリ大統領は、コロンビア大学卒でアメリカのネオコンとも親しく、今はウクライナの軍事顧問になっている人物。つまり、事実上アメリカの傀儡政権であり、アメリカの同意なくしてこの攻撃はなしえなかったということです。くしくも、ウクライナの首都キエフで、大統領辞任とEU加盟を求めた「ユーロ・マイダン」が起きたのも、ソチ五輪に合わせたかのようなタイミング……。今も、真実がどこにあるかを検証する必要がある。

――2度目のクリミア訪問は、そのわずかか1月後の2014年9月だが。

木村:議会選挙を監視するオブザーバーとして、国際的な要請があったので行きました。クリミア全域にある投票所のうち15か所ほど見ましたし、現地の人々にも自由に複数政党が立候補し、投票人が選択権を持っているか聞いて回りましたが、市民の皆さんは「干渉はない」「ウクライナ時代には考えられない」と言っていました。欧米のプロパガンダにあるような軍の介入など一切なく、昨年3月に行われた住民投票の結果も、ご存じのとおり96%もの人々がロシアへの編入を支持するものでした。そもそもクリミアには、ロシア人をはじめ、ウクライナ人、タタール人などの民族が共存していますが、ソ連崩壊直後に自治共和国として新たに生まれ変わったクリミアは、ウクライナ憲法に則って住民投票を実施しロシアへの帰属を宣言している。つまり、鳩山さんは、この憲法138条第2項に保障された「民族自決権」ともいえる住民の意思を尊重するとともに、ロシアとウクライナの平和を、身を挺して訴えようとしたのでしょう。

 木村氏が言う、この「民族自決」を訴える戦いは1954年まで遡る。当時、ソ連共産党の指導者だったフルシチョフ第一書記が、ロシア・ウクライナ合邦(ペレヤスラブ協定)300周年を記念しクリミアをウクライナに引き渡したのがそもそもの発端で、これが憲法上の手続きを踏んでいなかったため、今なお「違法」という見方もあるのだ。スターリンの死後、ソ連共産党内部で繰り広げられた権力闘争の結果、フルシチョフがウクライナのノーメンクラトゥーラらを懐柔するためクリミアを“出し”に使ったとする説など、その理由は諸説入り乱れているが、この点もフルシチョフの真意はわからないまま。ただ、これを機にクリミア内には、ロシアへの帰属を訴える独立派が現れ、ソ連崩壊後、木村氏が言うロシア帰属を求める住民投票が行われる流れとなった。

――だが、鳩山氏の言動は、欧米と足並みを揃えて対ロシア制裁を科す日本政府の立場と異なるため、今も「二重外交」との批判が渦巻いている。

木村:ロシアへの制裁は欧米に追随しているだけで、日本独自の判断ではない。北方領土問題を抱えている日本は表向き同調することでお茶を濁していますが、意味のない制裁は一刻も早く解除したいというのが安倍政権の本音なのです。今の日本の外交は米ロの板挟み状態。今回わかったことは、保身のことばかり考えて何の役にも立たない政治家とは違い、自分の頭で考えて対処できる、国際基準を持った政治家の一人が鳩山さんだったということ。今、ロシアの視線は欧州からアジアにシフトしつつあり、大きなパラダイム転換の時期にある。目まぐるしく変わる国際情勢の中では外交のバランス感覚が求められるが、ここらで独自の外交を真剣に考えないと、日本の真の自立はさらに遠のく……。そう考えたとき、民主党政権時にロシアとの文化交流を推し進め、鳩山一郎首相時代に日ソ共同宣言という成果を出した“鳩山ファミリー”を、ロシアは今も高く評価しているはず。今回、日本の報道を見て思うのは、鳩山さんがツッコまれやすいキャラなのかもしれないが、メディアは霞が関(外務省)のリーク情報頼みというだけでなく、単なる人格攻撃で溜飲を下げているだけ。これを機に日本外交を再考すべきですよ。

――しかし、鳩山氏が帰国した翌日の3月15日、プーチン大統領が、ロシアの国営テレビで放映された「クリミア、祖国への道」の中で、昨年2月の親ロシアのヤヌコビッチ政権が崩壊した際に「核兵器使用の準備をするよう軍に指示していたことを明かしている。このような核兵器の使用をチラつかせる発言は、「平和を実現するため」にクリミアまで赴いたという鳩山氏の友愛外交の精神に反しており、むしろ、ロシア側に利用されたようにも映るが。

木村:プーチン大統領が「核兵器の使用」について言及した番組は、ちょうど1年の区切りを迎えたクリミア併合の軌跡を追ったドキュメンタリー番組。今なお、ドネツクやルガンスク、マリウポリなどでは戦闘が続いており、この流血の事態を一刻も早く止めようと、プーチン大統領は強い決意を示す必要があったのでしょう。そもそも欧米各国は、ソ連崩壊後のNATOの歩みを見ればわかるように、着々と東方拡大政策を進めている。そのため歴史的に見ればロシアの「兄弟国」とも言えるウクライナは、この大きな流れに翻弄されるかたちで西側に取り込まれていった……。その最たる例が、2013年11月21日、当時の(新ロシア派である)ヤヌコビッチ大統領がEUとの連携協定の署名を拒否し、首都キエフで初めてのデモが発生しましたが、この直後の12月10日には、アメリカのヌーランド国務次官補がマイダン入りして、ご丁寧にデモ隊にクッキーを配って激励しているわけです。ちなみに、彼女は、ウクライナ米国協会でアメリカに好意的なNGOに10年間で50億ドル支援したと明言したこともある人物で、彼女の伴侶はゴリゴリの反ロシア論者であり、ネオコンの代表的な論客として名を馳せる評論家、ロバート・ケーガン氏……。つまり、このような露骨な東方拡大政策を進められればロシアが脅威と受け止めるのは当然で、プーチン大統領は、この挑発を止めるために抑止的な言葉としてあのような(「核攻撃の準備」という)発言をしたのではないでしょうか。プーチン大統領の対西側挑発者への決意が感じられます。日本のメディアは「鳩山氏は利用された!」と大騒ぎしていますが、今回のクリミア訪問は、決して鳩山氏の目指す「友愛精神」に反しているとは思いません。

 クリミア半島南部に位置するセバストポリは、ロシアが黒海艦隊を置く安全保障上絶対に譲れない要衝。一方、ロシアの孤立化を図るアメリカが現在肩入れするウクライナ政府は、「クーデター」で誕生した経緯があり、ネオナチが政権に入り込んでいるのは紛れもない事実だ。新冷戦時代の「火薬庫」、クリミアに鳩山氏が残した爪痕が今後どう影響してくるのか、しばらく目の離せない状況が続きそうだ――。 <取材・文/山崎 元>

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