伝説の守護神、ヤンキース・リベラの教え「うまくやろうとするな、シンプルにやれ」

 MLB通算652セーブという前人未到の偉業を達成し、松井秀喜や黒田博樹ともチームメイトだったマリアノ・リベラ。

マリアノ・リベラ 黒田がヤンキースへ移籍した最初の年、ミーティングで紹介した西郷隆盛の漢詩「耐雪梅花麗」(雪に耐えて梅花うるわし)に、いたく感銘を受けたというエピソードも記憶に新しいところだ。

 メディアからの激しいプレッシャーにも屈せず、ベースボールの歴史に輝かしい足跡を残したプレイヤーとなると、他人のうらやむ才能と強烈なパーソナリティを兼ね備え、燃えたぎる野心を抱く猛者の姿を浮かべてしまいそうになるが、リベラはまったく違う。

 初の著書『クローザー マリアノ・リベラ自伝』(訳・金原瑞人 樋渡正人)に、成功者のおごりはみじんもない。

※マリアノ・リベラ……1969年、パナマ生まれ。1990年、ドラフト外でニューヨーク・ヤンキースと契約。“魔球”カットボールを武器とし、メジャー初昇格の1995年から2013年の引退までヤンキースに所属。計5回、ワールドチャンピオンを獲得した。

成功は求めるものではなく、やってくるもの


 その野球人生の始まりからして、彼が積極的に動いた形跡はない。ある日、父親の手伝いで漁へ出たところ、船が危うく遭難しそうになる。一命はとりとめるものの、その事故がきっかけで漁に出るペースが減り、結果的に野球をする時間が増えたのだという。

 そんな折、味方のピッチャーがことごとく打たれたために、ライトを守っていたリベラに登板の機会がやってくる。急場しのぎもいいところだが、その登板で見事な投球を披露したことが地元スカウトに知れ渡り、ヤンキースの入団テストというチャンスを得たのだ。それでも当時のリベラは、こう考えていたという。

いいところを見せたいとも思わなかった。とにかく野球をする。それくらいにしか考えていなかった。(中略)このトライアウトは、プエルト・カイミト(筆者注・リベラの生まれ故郷パナマの漁村)を離れ、家族の生活を一変させる大きなチャンスだ、などとは夢にも思っていなかった。>(第3章 バス二台、投球九回)

マリアノ・リベラ

2010年4月、対ボルチモア戦でのリベラ

 さらに、メジャー昇格後、長く彼のキャリアを支えることになる“魔球”をマスターした際のエピソードにも、スポーツノンフィクション的な感動はない。不調だった97年のシーズン。トーリ監督(当時)から、「完璧を追いかけているように見える」との指摘を受けたことを回想して、リベラはこう記している。

スポーツに関する皮肉の一つだ。うまくやろうと考えすぎると、必ず失敗してしまう。(中略)腕が太くなったわけでもなく、球種が増えたわけでもないのに、以前よりも速く投げよう、うまく投げようと自分を追い込めば、苦しくなるだけだ。自分で自分の邪魔をしてはいけない。力を入れすぎず、自然に体を動かすことが必要だ。>(第7章 救援と信念)

 こうして心身が軽くなり、いつものようにキャッチボールをしていると、そのボールはチームメイトが恐れをなすほどの変化を見せた。カットボールの誕生だ。

何年もこれを探し求めてきたわけじゃない。この球種が欲しいと頼んだこともなければ、祈ったこともない。>(第7章 救援と信念)

 物事は、偶然にやってきて、それは必ず起こる。その瞬間にどう振る舞うかが偉大なのであって、計画的に自らの力で道を切り拓く、あるいはそうしてきたなどと自負するのは、おこがましいのかもしれない。

 リベラ自身の言葉で振り返られる数々のターニングポイントは、そんなことを示唆しているように思える。

人生のあらゆる場面で心がけてきた「シンプルに。」


 ゆえに、同僚のAロッド(アレックス・ロドリゲス)への見方はシビアだ。

いっしょにプレーした選手のなかでも、ずいぶん頭がいい。だからこそ、彼がしてきたことには、いくつか理解に苦しむものがあった。薬物違反のことだけじゃなく、人目を引こうとする言動についても。名プレーヤーとして語りつがれるだけでは物足りないのか、なんでもかんでも上を目指し、一番になろうとし、最高の自分を見せようとし、人一倍目立とうとする。そんなことをするから、妙なとばっちりを受けるのだ。>(第21章 サンドマン、引退)

 もっとも、こうした考えには、リベラが敬虔なクリスチャンであることも影響しているだろう。実際、自伝には聖書からの引用が数多くされている。しかし、自分よりも大きな存在を常に意識することが、過信や慢心を退けているのは確かだろう。

 そんな徹底した謙虚さを表わしている一言が、「シンプルに」。

山刀(マチェーテ)を振りまわすな。子どもの頃、そう教わった。カットボールという球種をきいたこともない、もちろん投げたこともない数十年前の話だ。バットや箒のように、マチェーテを振りまわすな。正しい扱い方をしっかりおぼえたら、むだな力を使わず、シンプルに操れる。私は人生のあらゆる場面で、これを心がけてきた。シンプルに。>(プロローグ)

 本の書き出しにおいて、全体のエッセンスがすでにあらわれている。「いつも変わらない投球モーションをくり返せることは、投手にとって計り知れない財産だ。」と語るリベラのモーションは、この自伝においても不変だったようだ。 <文/石黒隆之>

クローザー マリアノ・リベラ自伝

MLB記録の652セーブをあげた史上最高のクローザーが、母国パナマで父の船に乗っていた漁師時代、ドラフト外でのヤンキース入団、5度のワールドシリーズ制覇をはじめとする栄光の数々、そして2013年の引退まで、自らのすべてを語り尽くす

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