萩原健一、若い世代も衝撃を受けた「グダグダなカッコよさ」
“ショーケン”こと萩原健一(享年68)が、3月26日に亡くなっていたことがわかった。俳優として『太陽にほえろ!』や『傷だらけの天使』などで強烈な印象を残した一方、大麻の不法所持や交通事故などの度重なるスキャンダルで世間を騒がせてきた昭和の大スターだった。
作曲モート・シューマン、作詞ドク・ポーマスによる永遠のクラシック。オリジナルはアメリカのコーラスグループ「ドリフターズ」で、日本ではシャンソン歌手、越路吹雪(1924-1980)の歌で親しまれてきた。
ショーケンは、80年代から2017年のアルバム『Last Dance』に至るまで、長年好んで歌ってきたようだ。筆者は、音楽チャンネルで観た80年代の番組での演奏に、衝撃を受けた。アンサンブルの論法が実に上品で、直線的な生真面目さとは対極の緊張感に満ちていたからだ。
ひとつひとつのビートはユルくグダグダでありながら、バンド全体はタイトにまとまっている。これにゆらゆらと漂うショーケンのボーカルが、よくマッチしているのだ。ドク・ポーマスによる歌詞のアイロニーを体現したパフォーマンスだった。
アメリカのシンガーソングライター、ハリー・ニルソン(1941-1994)の傑作カバーは別格としても、日本語版「ラストダンス」の最高峰は、ショーケンだろう。
1983年公開のヤクザ映画『竜二』の主題歌。ここでもショーケンの反語的なボーカルが効いている。呑気なフォークロック風の曲調に、感情表現を抑えた言葉少なな歌詞。わかりやすい劇的な展開のない曲だからこそ、ボーカリストの力量が問われる。ショーケンの歌は、心象のグラデーションを鮮やかに映し出していた。それは映画『竜二』の投げかけたメッセージと一致していたように感じる。
ショーケン流の「ドック・オブ・ザ・ベイ」と形容したくなる名曲だ。
1996年放送のドラマ『冠婚葬祭部長』(TBS系)の主題歌。筆者世代がリアルタイムで体験したショーケンとなると、このあたりだ。GS時代や『太陽にほえろ!』からは想像もつかないアットホーム路線に、古くからのファンも驚いたかもしれない。
だが、ショーケンは王道のJポップも難なく歌いこなしてしまった。しかも自らの個性を消すことなく、それでいて一般向けのマイルドな味わいに落ち着かせてみせた。「ラストダンス」や「ララバイ」とは、また違った凄みを感じさせる一曲だった。
今の時代にも、役者をやりながら音楽活動をするタレントはいる。だが、その両方の世界で突出した才能を発揮するのは難しい。萩原健一は、いとも簡単にやってのけた。月並みな言い方になってしまうが、やはり不世出の天才だったのだと思う。
<文/音楽批評・石黒隆之>音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
そんなショーケンのキャリアで忘れられがちなのが、音楽だ。GS全盛期にテンプターズのボーカルとして一世を風靡したのは知られるところだが、むしろソロになってからのパフォーマンスこそが素晴らしい。リアルタイムでハマっていたわけではなく、特に強い思い入れもない筆者(30代)も、折に触れてレベルの高さに感銘を受けてきた。
そこで、“ミュージシャン”萩原健一の名演を、いくつか振り返ってみよう。
①「ラストダンスは私に」
②「ララバイ」
③「泣けるわけがないだろう」
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