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「運の流れを変えなければ」――46歳のバツイチおじさんはカジノに活路を見出そうとした〈第20話〉

4日ぶりのご飯。 一口食べたら体が拒絶した。 鳥肌がたった。 それでも、水でハンバーガーを口に流し込み、なんとか半分食べた。 お腹がいっぱいになった。 その足でホテルに戻り体を休めた。 夕食もバーガーキングのワッパー。 今度は全部食べ、次にポテトを食べた。 翌日にはさらにサラダを付け加えたりして、徐々に食べる種類を増やしていった。 しかし、体重はげっそり落ちてしまった。 「運の流れを変えなければ」――46歳のバツイチおじさんはカジノに活路を見出そうとした「ご飯を安全に食べられるってこんなにも幸せなことなんだ」 改めて日本の食の安全を確信し、感謝をした。 その日、ベトナムに入国するときに強制的に予約させられたカンボジア・プノンペン行きの飛行機の時間がきた。 結局、ホーチミンでは何ひとついいことがなかった。 もう、ここに立ち止まる気力もない。 重い身体を引きずり、22キロの重いバックパックを持ち上げ、タンソンニャット国際空港に向かう。 ふらふらになりながらタクシーに乗り、空港へ急いだ。 しかし、昼間は異常な数のバイクで大渋滞。 到着したのは出発1時間前だった。 「なんとか間に合った……」 タクシーを降り、駆け足でチェックインカウンターに行くと、予想外の対応が待っていた。 空港職員 「もう、受付時間は終わり、航空会社は閉まりました」 俺    「え? まだ一時間前ですよ!」 インフォメーションセンターや航空会社に交渉するも、全く取りあってもらえない。 俺    「タイやフィリピンでは1時間前で大丈夫だったんですけど」 空港職員 「ちょっと、出発の手伝いがあるんでここ離れますね」 そう言うと、カウンターには誰もいなくなった。 またしても空港でトラブルだ。 1時間前にいるのに、なんでチェックインできないんだよ。 釈然としなかったが、これ以上騒いでも意味がない。 そもそもそんな元気もない。 「……しょうがない。あきらめるか」 今後は渋滞も見越したうえで、LCCに乗る時は2時間前には着いとかなきゃだめだ。 落ち込んでもしょうがないので、窓のない部屋に戻ることにした。 「体を完璧に治し、陸路でカンボジアの国境を越えよう!」 元々、陸路での国境越えがしたかったので、すぐに頭はポジティブな方向に切り替わった。 ホテルに戻り少し休むと、空が暗くなっていた。 ホーチミン最後の夜はベトナム料理のフォーを食べることにした。 「ダメだ。ちゃんとベトナムの食文化を吸収して帰らなければ」 初めは「おいしい~おいしい~」といって食べていたベトナム料理。 でも、食中毒になって一切受け付けなくなった。 このままベトナムの食文化を避けたまま逃げて帰るのが嫌だった。 負け癖は良くない。 「負けて涙を流すなら、勝って勝利の涙を流せ!」 高校時代のバスケ部の監督の言葉だ。 意を決し、フォーの専門店に向かった。 決して綺麗とは言えない店構えだ。 一人椅子に座り、牛肉のフォーを頼む。 アジアはほとんどの店がそうだが、机の上には前の人の残した食べかすが必ずと言っていいほどある。この店もそんな感じだった。 そして、牛肉のフォーが運ばれてきた。 「怖い」 「運の流れを変えなければ」――46歳のバツイチおじさんはカジノに活路を見出そうとしただが、バスケ部監督のあの言葉頭に浮かんできた。 「やるしこ(か)ないんだよ!隆一郎」 俺の座右の銘だ。 頑張って箸をつけた。 「うまい!」 さっぱりとしただし汁に肉の旨みが混じり、香草で独特の味わいが出ている。 味を通じて、体が回復していることを確信した。 初日に泊まった日本人宿のオーナーが言うには、ベトナム料理には出汁をとるという中華圏の食文化がミックスされているらしい。だから、出汁文化になじみ深い日本人にはおいしいと感じる料理が多いという。 ベトナム・ホーチミンは滞在期間が短かったのと食中毒のため、なかなか現地の人と交流することができなかった。しかし、最後の日に牛肉のフォーをおいしく食べることができ、体の回復を感じることもできて、ホーチミンのラストナイトを俺なりに〆ることができた。
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翌朝、近くの旅行会社に行き…
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