「運の流れを変えなければ」――46歳のバツイチおじさんはカジノに活路を見出そうとした〈第20話〉
運の流れと言えば博打。
俺はカジノに行くことにした。
カジノにはさまざまな運がうごめきあっているに違いない。
その運にぴょんと飛び乗ってみようと思った。
俺はトゥクトゥクを飛ばし、Nagworld&Hotel Entertainmentというカジノに向かった。
トンレサップ川の高級リゾート地にきらびやかに輝く、プノンペンとは思えないド派手な外観だ。
俺の泊まっているバックパッカー街とは何もかものが違っていた。
中に入ると派手な音楽が流れ、キレイに着飾った女性がたくさんいた。
2フロアーのあらゆるところに、スロットマシンがある。
メインフロアーにはルーレットやブラックジャックなどがあった。
流れを変えるためにやってきたとはいえ、俺はバックパッカー。
今は無収入だ。
こんなところでうん数十万円もスられたら、旅を止めて帰らなければならない。
沢木耕太郎の「深夜特急の香港・マカオ編」でも博打の話が出てきて、若き主人公は人生観を変えるため、全財産をかけてもいいという勝負に出る。
俺の場合、そんなことをする気はさらさらない。
エンターテイメントに身を置く人間は、人生が博打みたいなもんだ。
こんなところで余計な運を使いたくない。
そう心に決めて、賭場に入った。
辺りを見回すとほとんどが中国人だった。
やはり、中国経済の発展は凄いようだ。
凄い勢いで中国語とお金が飛び交っている。
しばらく様子を見ているとめちゃくちゃに混んでいる席と、ガラガラな席があることに気づいた。
特にルーレットの一つは、20分以上誰も席についていない。
俺は、あるアイディアを思いついた。
「あの席に座り、当たったら騒いでやろう」
ルーレットのディーラーは狙ったところに100発100中入れられると聞く。
であれば、「俺が誘い水となって他のお客さんが集まってくれば、ある程度までは俺を勝たしてくれるのではないか?」という仮説を立てた。
俺はオドオドしたふりをしてルーレットの前に座った。
そして5$分のチップを黒に置いた。
もし、当たったら思いっきり喜んでやろうと思った。
ルーレットの玉は転がり…………、見事に黒へと的中。
「おし!」白々しくならないように、さりげなくガッツポーズをした。
今度はチップ2枚を赤に置くと、ルーレットは転がり赤に落ちた。
今度はもう少し派手に「よっしゃ~!」とガッツポーズをした。
すると、暇そうな中国人のおばさん二人組が、俺のテーブルに寄ってきた。
賭けもせず何か中国語で喋っている。
俺はチップ2枚を手元に残し、もう2枚をまた赤に置いた。
するとルーレットの玉は赤に入った。
3連続の当たりだ。
すると、中国人のおばさんたちが、俺にニコニコしながら中国語で話しかけてきた。
俺はこの人達、「パチンコで言うところのサクラかも」と思った。
しかし次の瞬間、そのおばさんたちはおもむろに大穴狙いで一人100$くらいをバラバラと賭けだした。
「おばさん、金持ってるんだ」
俺は、今度は黒に置いた。
そのおばさん二人のうち、一人は少し勝ち、一人はかなり負けた。
でも、少しは当っている。
玉は黒に落ち、俺はまた当たった。
俺は確信した。
「このディーラーは俺ら3人を餌に、他の客を呼び込もうとしている」
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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