更新日:2022年07月28日 02:20
ライフ

「いじめ」についてSEALDsの奥田さんと対談して思ったこと【鴻上尚史】

 いじめられて鳩間島に逃げてきた小学生は、「鳩間島に来て、どう変わった?」という僕の質問に「子供らしくなりました」と笑顔で答えました。  逃げることは恥じゃない。逃げていいんだ。逃げることは、自分の意志で「行く」ことでもあるんだ。積極的に逃げてほしい。  そんな思いで、今の学校が嫌なら、南の島にでも小さな村にでも逃げればいいと僕は書いたのです。

受け継がれていく天国の友との仕事

 この文章を読んで、実際に奥田さんは鳩間島に中学2年の時に行ったそうです。文章のどこにも「鳩間島」とは書いてなかったので、僕は驚きました。  対談では、鳩間島の生活をいろいろと聞きました。奥田さんは1年半ほどいたそうです。  住んでみれば、もちろん、「南洋の楽園」なんかじゃなくて、そこには生活があります。人間がいれば感情があり、対立や葛藤やすれ違いも当然あります。それでも、奥田さんは「鳩間島に行ってよかった」と言いました。  僕は奥田さんの話を聞きながら、原稿を依頼した友人の山上浩二郎のことを思っていました。山上は、2012年、心臓の病気で亡くなりました。52歳という働き盛りでした。奥さんと娘さん二人が残されました。  山上が依頼しなければ、「死なないで 逃げて逃げて」という原稿を書くことはありませんでした。  原稿を依頼した側も書いた側もお互い、10年後に、こんな形で引き継がれるとは夢にも思いませんでした。こうやって、仕事というか成果というか「やったこと」は受け継がれていくのかなあと、天国の山上を思います。  お前がした仕事は、こうやって今を生きる人の中で続いているんだぞと、山上に語りかけたくなるのです。  奥田さんは、対談した次の日、ツイッターでこう書きました。 「鴻上さんと対談して、自分が生きてるのって笑っちゃうぐらい偶然なんだなと思いました。10年前、鴻上さんのある記事をきっかけに鳩間島に行ったのでした。死なないように、逃げるように」  鳩間島は今、小学生と中学生あわせて3人の生徒しかいないようです。定員はまだまだ余裕です。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

『週刊SPA!』(扶桑社)好評連載コラムの待望の単行本化 第19弾!2018年1月2・9日合併号〜2020年5月26日号まで、全96本。
1
2
※「ドン・キホーテのピアス」は週刊SPA!にて好評連載中

この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

おすすめ記事