恋愛・結婚

憧れ「ストニュー彼氏」の化けの皮――鈴木涼美の「おじさんメモリアル」

「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは自らを饒舌に語るのか』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)などの著作で「性を商品化する」女性たちの内面を活写し注目されている文筆家の鈴木涼美が、「おじさん」をテーマに日刊SPA!で連載する「おじさんメモリアル」第19回!

【第19回 もしかしてあの時の人ですか】

 高校2年生の終わりに、ひとつ上の学年にいたヒロコさんという人がそこそこお金持ちの社会人の彼氏と付き合い始めた、というのは似合わないアイシャドウを塗りたくって17歳ではない何かになりたくて仕方なかった私たちの間ではそれなりにそれなりのビッグニュースだった。ヒロコさんは「東京ストリートニュース」にも結構大きく載ったことのある美人さんで、色白の肌にくるくるした明るい髪のパーマが、その辺のありきたりのギャルと一線を画したオシャレさんでもあった。

 私の隣のクラスにいた事情通の黒ギャル・ナオコによると、ヒロコさんはその彼と恵比寿のクラブで出会い、彼の熱心なアプローチで付き合うことになった。彼の職業は不動産関係で、趣味の音楽にもちょっとした投資をしていたりいなかったり。この辺りいまから思えばちょっと胡散臭いのだが、当時、日サロに入る時にニプレスをするかしないかがせいぜいの悩みだった私たち女子高生からすればなんとなくかっこいい響きで、彼の服装が「ギャル男やサーファーの気はまったくないのだけれどかといってイモくない」シンプルなものでさらにおしゃれメガネなどしているところも、「さすがはヒロコさんの彼氏」という賞賛に値するものだった。

 ヒロコさんは時々、彼氏のセルシオを校門に待たせていたり、明らかに泊まりの用意をして学校から彼が一人暮らししている目黒方面に帰って行ったりしていて、これもまた牛角で満腹になるオカネがないから一旦吉野家で腹ごしらえしてからシメに焼き肉に行こうなんて言い出す金無し車無し甲斐性なしが基本の高校生の彼氏との付き合いからは深い溝を隔てた向こう側にあった。すてき♡ オトナ♡ おしゃれ♡。あげく彼氏とツーショットでストニューに登場。彼のねじりパーマが妙におしゃれで、彼のエルメスの財布も、中身も含めて大人っぽくて羨ましかった。

 時は過ぎ、私も高校を卒業し、大学も卒業し、大学院に入学したころである。セクシー女優も引退し、芝浦に引っ越し、キャバクラも辞めて、一旦「健全」な生活を手に入れんとしていた私は、何故か「健全」=サラリーマンとの合コンというあまりワケのわかっていない思い込みで、エリートなおしゃれ企業人たちと西麻布や恵比寿で東京プリン並のスケジュールで飲み会を開いていた。合コンといっても毎回毎回違う企業、違う面子で揃えているわけではなく、よくホームパーティを開くIB●の田中くん、とか、しょっちゅう接待合コンを頼んでくるD通の山田くん、とか、涼美さん的お気に入り男子のM菱商事の佐藤くん、とかいうお馴染みの面子はいて、そこに新しい男子がちょこちょこ登場するというのが日課であった。

⇒この続きは連載をまとめた単行本「おじさんメモリアル」で

【鈴木涼美(すずき・すずみ)】
83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。09年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。「身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論」(幻冬舎)発売中。現在は日経新聞を退社し、執筆業を中心に活動。幻冬舎plusにて「愛と子宮が混乱中 夜のオネエサンの母娘論」を連載中。LINEブログはhttp://lineblog.me/suzukisuzumi/

(撮影/福本邦洋 イラスト/ただりえこ 資料協力/大熊信)

おじさんメモリアル

著者が出会った哀しき男たちの欲望とニッポンの20年
日刊SPA!の連載を単行本化


「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか

慶応大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修了。本書がデビュー作。

身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論

「お乳は生きるための筋肉」と語る夜のおねえさんの超恋愛論





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