ストーンコールドとマイク・タイソンの歴史的乱闘――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第279回(1998年編)
タイソンはややおとなしめの紺色のスーツ姿で“ロウ”の入場ゲートに現れた。すぐ後ろからはボディーガードとおぼしき4、5人の人相の悪い大男たちがくっついていた。タイソンのスーツの襟元からは、そのすぐ下に着ている純白のドレスシャツのカラーのとんがりがちょこっとのぞいていた。
リングのまんなかにはベージュのワイシャツにブラウンのスポーツコートをはおったビンスが立っていた。タイソンとビンスは、いつのまにかネクタイをとっぱらって話し合える関係になっていた。
それは“事件”といえばたしかに“事件”だったし、ファンタジーとリアリティーの境界線があいまいな空間ととらえれば、まさにそのとおりのワンシーンだった。ストーンコールドとタイソンのまさかの大乱闘シーンは2時間番組“ロウ”の1時間めの最後の数分間に起きた。
満面の笑み――「どんなもんだい」という表情――を浮かべたビンスがタイソンの“レッスルマニア14”出場をアナウンスした瞬間、フレズノの観客はまずビンスに対するブーイングを大合唱し、それからタイソンにも容赦ないブーイングと罵声を浴びせた。タイソンは前年、ラスベガスでのイベンダー・ホリフィールドとの世界タイトルマッチで“噛みつき事件”を起こし、ライセンスはく奪―無期限出場停止処分を受けていた。
リング上でタイソンのライブ・インタビューがスタートした瞬間、アリーナ内のPAシステムからおなじみのテーマミュージックが響きわたり、ストーンコールドがリング内におどり込んできた。それが番組の一部だったのか――もちろん、そうだったのだろう――、ストーンコールドなりの自由な発想だったのかはあまり大きな問題ではない。
「バッデスト・マン・オン・ザ・プラネットThe Baddest Man On The Planet(地球上でいちばんバッドな男)だそうだな。オレはタフエスト・サナバビッチThe Toughest Son Of A Bitch(ケンカ最強野郎)って呼ばれてんだ」
「ここはWWEのリングだぞ。オメー、なにしにきたんだ?」とマイクをつかんだストーンコールドが叫ぶと、アリーナ全体が“地鳴り”のような大音響に支配され、それからあとはもうなにも聞こえなかった。
「オメーさん、ボクサーだから耳が悪いだろ。手話で教えてやるぜ!」
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