ストーンコールドとマイク・タイソンの歴史的乱闘――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第279回(1998年編)
ストーンコールドがいきなり両手の中指をタイソンの顔のまえに突き出した。WWEファンを公言し「いちばん好きなレスラーはストーンコールド」と語っていたタイソンは、はじめのうちはオースチンの挑発行為を笑いながら軽く受け流そうとしたが、目のまえで中指を立てられたら黙ってはいられなかった。
タイソンが両手でストーンコールドの胸を突き飛ばすと、ストーンコールドも反射的にタイソンに飛びかかった。WWEのエージェント陣、チーム・タイソンのメンバーが入り乱れての大乱闘シーンに発展。リング上は大混乱となった。
ここでぶちキレたのはタイソンだけではなかった。ビンスも半狂乱モードで「このディール(商談)をぶち壊すつもりか?」と怒りのホコ先をストーンコールドに向けた。いまになってみると、スーツ姿のビンスがストーンコールドに襲いかかったこのシーンこそ新キャラクター、ミスター・マクマホン誕生の瞬間だった。
ストーンコールドとタイソンの大乱闘シーンはニュース映像となって一瞬のうちに地球をかけめぐった。同夜、3大ネットワーク(NBC、CBS、ABC)のニュース番組がスポーツのトップでこれを報道。ケーブルTVではESPNの“スポーツセンター”とFOXの“FOXスポーツ”が地上波よりもやや長めの特集で“事件”の一部始終をリポートした。
AP通信が配信した「タイソン、プロレス転向か?」のニュース(1月20日付)はアメリカじゅうの新聞に掲載され、全国紙の『USAトゥデー』も独自のソースで“タイソン問題”を報じた。
もちろん、日本の民放テレビ各局のニュース番組、活字メディア(新聞、スポーツ新聞)もこのおもしろすぎるネタに飛びついた。「タイソン、こんどはプロレス?」。アメリカでも日本でも、このニュースの見出しには必ずといっていいほど“こんどは”という注釈がついていた。
プロボクシング元世界統一ヘビー級王者であると同時に、強姦罪で実刑判決を受けたアフリカン・アメリカン男性。獄中生活中に敬けんなイスラム教徒に生まれ変わり、出所後は再びその腰にチャンピオンベルトを巻いた“奇跡の男”。そして、ホリフィールドの耳を噛みちぎり、ボクシング界から追放されたアウトロー。世界じゅうが好奇の目でタイソンの“こんど”を心待ちにしていた。
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