篠山紀信に女装グラビアを撮ってもらった小説家の肖像―仙田学の『女のコより僕のほうが可愛いもんっ!!』
翌日、待ちあわせた喫茶店で、市川真人氏の口から切り出されたのは、女装グラビアのオファーだった。『早稲田文学』の編集委員である市川氏は、TBSの「王様のブランチ」のコメンテーターでもある。ラノベのカバー折り返しに書かれた著者プロフィールの、「趣味は映画鑑賞と蒸発と女装」というくだりから思いついたのだと、理由を説明しながらも、嫌なら断ってくれていいんだからね? と繰り返す。やります、と即答しながら、私は心のなかでバンザイと叫んでいた。願ってもないプレゼントだ。子どもの頃の夢が叶ってパイロットになれた青年のように喜んでいた。
子どもの頃に、私はグラビアアイドルになりたかった。本屋の店先の週刊誌の表紙で大きなおっぱいを晒している彼女たちは、目を逸らさずにはいられなくなる存在だった。そのくせ部屋に帰るとその姿をすみずみまで思いだそうと必死になってしまう。
あるとき私は考えた。なぜここまで気になって仕方がないんだろうと。手に取ってじっくり見たい。表紙のみならず中身も。欲をいえば写真より実物のほうがいい。正直、拝むだけでは蛇の生殺しになるだろう。触れたい、匂いを嗅ぎたい……。
中学生らしく微笑ましい妄想を四六時中繰り広げた挙句に、ある恐ろしいことに気がついた。たとえば本当に実物の女性を見たり触ったりできたとしても、それで自分は満足できるのだろうか、と。私はおそらく、おっぱいの大きくて柔らかそうな女性の肉体を、自分のものにしたかったのだ。性的に、というだけではなく、性欲が確立される前の未分化な欲望のひとつとして、幼児がおもちゃを欲しがるように、その肉体を所有したかった。
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