ハロウィンの夜、巫女服プレイで女装に目覚めたT君――女装小説家・仙田学の『女のコより僕のほうが可愛いもんっ!!』
日常的に女装を続けていたわけではない。チヤホヤされたい願望がある程度満たされると、女装熱はしばらくおさまった。再燃したのは社会人1年目のハロウィンの夜。サンリオピューロランドで仮装パーティがあると女の子の友人ふたりに誘われた。T君の女装歴を知っていて、可愛い可愛いと褒めてもくれた彼女たちの提案で、ドンキホーテに寄って巫女服を買い、車のなかで着替えてメイクもしてもらった。ピューロランド内はクラブ仕様になっていた。酒も入り、T君はいつの間にか男たちと踊っていた。汗だくで踊るうちにヅラがずれてきて、邪魔になったので引っ剥がすと、男たちは変な声をあげた。
「男かよ!」
T君の背すじに快感が走った。「女装のレベル高すぎっすね!」と褒められてさらにテンションがあがる。巫女姿で男子トイレに入ろうとしたところ、酔った女の子と間違えられて止められるという一幕もあり、心のなかで「やった!」と叫んだ。
男だとばれないことが快感だった。
家族はT君の女装をどう思っているのだろう? 大学時代に女装をして街歩きを楽しみ、そのままの格好で家に帰ったことがあるという。「そういうの好きそうな気がしてた」と母親は真顔になった。「大学に着て行っていい?」と聞くと、「それはダメ」とさらに真顔になった。
女装について、父親がどう思っているのかはわからない。中学生の頃に両親が別居をしていらい、T君は母親とふたり暮らしをしてきた。母親と喧嘩ばかりしていた父親はとても怖く、「こうはなりたくない」としか思えない相手だった。今も年に一度くらいは会うが、寡黙で一緒にいても楽しくない。自分のなかの男っぽさに直面すると父親を思いだし、父親に近づく気がして自己嫌悪に駆られる。女装を通して男性性から解放されたい、というT君の欲求は、父親との関係に根ざしているように思える。
大学4年の秋に当時の彼女と別れたときのこと、T君に新しい契機が訪れた。他に好きな人ができたから、と離れていこうとする彼女にT君は縋った。どうしても別れたくなかった。なぜそこまで執着してしまうのかはわからないが、3年続いた彼女を振ってまで乗り換えた相手だった。しかもつきあって数週間。別れ話はこじれた。恋人でいることができなければ、せめて息子になりたいと願った。
バブバブ言いながらまといついてくるT君に、彼女は最初こそ困惑したものの、すぐにノリノリになった。ふたりは別れられないまま、赤ちゃんプレイにいそしんだ。
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