中古の軽自動車に乗る慎ましい現代ヤクザの姿――「見栄を張ればタカられる」崩壊したヤクザ社会
いま困窮するヤクザ社会の住人たちは、近いところでカネの匂いがすると、一斉に群がって、なんとかおこぼれを頂戴しようと躍起になっているのだという。暴力団員である山崎氏の表の顔は、飲食店数店を経営する零細企業家ということになっているが……。
「飲食店以外にも、コンサルやら中古車販売など、社長を雇って何件もやってるんだ。年商は十数億あるが、上にバレると絶対にいいことがないから隠すしかない。車はレクサスやベンツを数台、時計も趣味でパテック・フィリップやフランク・ミュラーを数十本持ってるが、親のところ(組事務所)に行くときは、あえてみすぼらしい格好をする。使い古したジャージに着替えて軽自動車に乗っていく。時計はGショック(笑)。一度、うっかり金のロレックスをはめて行ってしまい、慌てて『よくできたパチモノだ』と言い訳したときは情けなくて。もはや何のためにヤクザやってるのかわからない」
ヤクザであることを匂わせて仕事をすれば、本人だけでなく、組長まで一発で逮捕されてしまうこの時代。ヤクザであることはすでに“リスク”という他ないのが事実であろう。山崎氏のようにカタギの事業で成功し、その必要がないのにヤクザを続ける理由はなんなのか?
「義理とか人情……であればいいけど、この世界には幻滅し尽くして、そういう感情はない。もはや惰性でやってるだけ。ただ……本音としては、組を出た瞬間に店や従業員、家族が狙われるかもしれないという恐怖はある。どうしてこうなっちゃったかなと思うけどね。時代の流れだと諦めるしかない」
ヤクザとしての見栄を張ることも許されず、ヤクザであることを隠しながら生きていかなければならないヤクザの置かれた現実。一方では、半グレをはじめ、ヤクザではないとされながらも、ヤクザ以上に酷いやり方で弱者を食い物にする連中も増加し続けている。山崎氏はため息をつく。
「理屈ではない(ヤクザの)世界を理屈(法律)で潰した結果が今。自分たちを肯定する訳じゃないがね……」
<取材・文/伊原忠夫>
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