ライフ

「俺はあの笑顔が好きだ。るりちゃんから笑いを取りたい」――46歳のバツイチおじさんはヒンドゥー教の聖地で大きな邪念を抱いた【第40話】

しばらくすると小島に到着し、舟を降りた。 るり「暑い……ですね」 俺「うん、暑すぎる……」 時刻は13時を少し過ぎたくらい。一番暑い時間帯だ。太陽は俺たちを燦々と照り付けて、日差しが痛い。体感温度は45度を超えていた。 俺「とりあえずお墓のある建物に行って、日陰に入ろう」 2人はヴィヴェーカーナンダの墓のある寺院に向かった。すると、 守衛「ここから先に入るなら靴を脱いで裸足になりなさい」 どうやら靴を履いてヒンドゥーの寺院に入るのは厳禁らしい。さすが宗教の聖地だ。 しかし、直射日光を浴びた石畳は燃え盛る鉄板の上を歩くぐらい熱い。 2人は仔鹿のように飛び跳ねながら何とか寺院のある建物へ到着した。 その時、とんでもないミスに気づいた。 俺「あ! やばい。水持ってくるの忘れた」 るり「え! ……私もです」 あたりを見渡しても売店らしきお店は一軒も見つからない。そりゃそうだ。ここは聖なる場所の境内なのだから。 俺「まぁまぁ、何とかなるでしょ!」 その後、俺たちは小島にある観光地を回り、写真を撮りまくったりと、はしゃぎまくった。調子に乗った2人は汗びっしょりになった。

テンション高めのるりちゃん

セルフィーでパシャり

俺「あれ。やばい。ふらふらする」 るり「大丈夫ですか?」 俺「そういうるりちゃんも、疲れてます!って顔してるよ」 るり「えー。でも、喉カラカラです」 俺「とりあえず、隣の島のティルヴァッルヴァル巨像がある岩に行こう。あっちに水、売ってるかもしれないし」 2人はまた裸足で仔鹿のように飛び跳ねながら境内を出て、ボートに乗り、タミル文学の詩人であるティルヴァッルヴァル巨像のある岩へ向かった。

南インドの詩人ティルヴァッルヴァルの巨像

暑さに参ってしまったるりちゃん

るり「お水ー、お水ー。どこにも売ってない」 俺「やばい、目の前に蚊みたいのが沢山現れてきた」 脱水症状のせいなのか、足はすでに痙攣していた。 目もチカチカしてきた。これは結構なピンチだ。 るり「ごっつさん、見てください! 子供がアイスクリーム食べてる!!」 俺「本当だ!」 駆け足でインド人の子供の元へ駆け寄った。 俺「それ、どこで買ったの?」 子供「あっちの売店で売ってるよ」 俺「ありがとう! あっちに売店があるみたい。行ってみよう」 2人は駆け足でそれらしき建物へ向かった。 俺「あった! アイスクリームも売ってる」 るり「本当ですか!? アイスクリーム、食べたい!」 2人は1リットルの水を買い、一気飲みした後、俺はイチゴ味、るりちゃんはバナナ味のアイスクリームを注文した。 るり「冷たくておいし~い」 俺「生き返る~。このアイスクリーム、人生で一番美味しいかも」 るり「私もです!」 こうして、ある意味命がけのヒンドゥー教の聖地巡礼が終わった。 2人でピンチから脱出したせいか、なんだかその距離感がぐっと縮まったように感じた。

隣り合う小島にあるヴィヴェーカーナンダさんの墓とティルヴァッルヴァル巨像

るり「ごっつさん、私、お花買いたいです」 俺「お花?」 るり「ジャスミンの白い花、ヒンディー教徒の女性が髪につけてるんですけど、すごく可愛いんですよ」 俺「へぇー」 その後、るりちゃんは海岸近くのヒンドゥー寺院のおみやげ屋さんと上手に交渉し、白いジャスミンの花でできた髪飾りを買った。 るり「ごっつさん、髪にお花を飾り付けるの手伝ってもらっていいですか?」 俺「え? いいよ。もちろん」 るりちゃんは上手な手さばきで黒髪に白いジャスミンの花を飾った。 そして後ろを向き、どう花を飾るかの指示を出した。 こんな近い距離でるりちゃんを見るのは初めてだ。 後ろ姿の無防備なるりちゃんがとても愛しく感じた。 るり「どうです? ごっつさん」 俺「すごく綺麗だし、よく似合ってるよ」 るり「ありがとうございます。一度ジャスミンのお花、つけてみたかったんです」 また2人の距離が縮まったように感じた。

お花の髪飾りをつけたるりちゃん

俺「沐浴見に行かない?」 るり「行きたーい。りー、楽しみにしてたんです」 ん!? りー?? るり「ピーナッツ売ってる~。りー、もうお腹ペコペコ」 また、「りー」って言った。 そうか、るりちゃんは自分のことを「りー」って呼ぶのか。 アシュラムまではずっと「私」って呼んでいたのに。 花飾りをつけてあげてから、急に俺の前で「りー」って言うようになった。 俺に大分、心を許してきたのかな? これは…… もしかして…… もしかしてもしかして…… 久々に言うけど………… 「いけるかもしれない!」 それから二人で、アラビア海、インド洋、そしてべンガル湾の三つの海がちょうど交わる場所にある沐浴場に着いた。 岩場の間にある小さな砂浜に、溢れんばかりのヒンドゥー教徒たちが沐浴をしていた。ある者は一心不乱に神にお祈りを捧げ、またある者は家族と楽しそうに海に浸かっていた。

三つの海が交わる場所にある沐浴場

沐浴をする巡礼者たち

2人はインドズボンをまくり上げ、水に入った。そして、目をつぶり神様にお祈りをした。こういうとき八百万(やおよろず)の神を持つ神道が身についた日本人は便利だ。どんな神様にも神聖な気持ちでお祈りを捧げられる。 「るりちゃんとの恋が成就しますように」 俺は一心不乱にお祈りを捧げた。 るり「ごっつさん、そんなに長く何をお祈りしてたんですか?」 俺「秘密」 るりちゃんは首を傾げながらクシャリと笑った。 それから2人で夕日を見に行った。 ここカニャクマリが神聖な宗教スポットである理由は、三つの海が交わるということの他にもう一つ理由がある。実はここ、昇る朝日と沈む夕日が同じ海で見れるという世界でも類をみない摩訶不思議なスポットなのである。 俺たちは30分ほど歩き、俺たちは海辺の塔に陣取ることにした。 それから他愛のない話をしながら夕日が沈むのを待った。 やがて、空の太陽が段々と海のほうに落ちてきた。 太陽と海の色が変わり、街全体が神秘的な色合いに変わっていった。 いよいよ日の入りだ。 るり「太陽が大きーい」 俺「本当だ。なんでだろう?」 るり「不思議~。こんな夕日見るの生まれて初めてかも」 俺「…うん」

摩訶不思議な日の入り。太陽が驚くほどでかい

もし俺がヒンドゥー教の神様なら、きっと「ここに聖地を創ろう」という気持ちになっただろう。 その太陽や空はゴッホが描く絵のような独特な味わいがあった。 2人は沈みゆく太陽を静かにじっと見つめた。 ロマンティックとはまた違う、経験したことのない空気が2人を包む。 ふと、神様に心をぎゅっと鷲掴みされるような感覚に陥った。 気づくと目には涙が溜まり、溢れ落ちそうになっていた。 俺「……帰ろうか」 るり「……はい」 2人は宿までの道を、あまり会話をせずに歩いた。 空の色は紺碧色で、宇宙にいるような感覚を覚えた。 やがて2人の会話は完全になくなり、黙々と歩くだけになった。
次のページ right-delta
宿に到着すると…
1
2
3
4
5
Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事