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2018年上半期、最もアニソンを売った女・上坂すみれが語る“ノーフューチャー”な現在と未来

掟ポルシェの切実な思いが反映された異色作

――作詞は難産でした? それとも安産? 上坂:最初「3日で書け!」って言われたんですけど、さすがにムリだったので2週間ぐらいいただきました。でも、職業作家の方にも「3日で」なんて依頼はしないと思うんですよ。 ――だと思います。 上坂:そういうことを平気で言うあたりが、さすが須藤さんって感じなんですけど(笑)、一応2週間のうちにはちゃんとよく考えつつ書くことができました。 ――で、ここまで今回のアルバムの現代性についてお話ししてきたんですけど、本作には明らかに異色な1曲が収録されています。 上坂:掟さん……。 ――はい(笑)。掟ポルシェ(ロマンポルシェ。)さんプロデュースの「チチキトク スグカエレ」。 上坂:まさに1980年代ニューウェーブのままの雰囲気ですよね。なんというか、この曲だけブラウン管のテレビから流れてきそうというか……。 ――ハイビジョンテレビや4Kテレビ的な音ではないですね。 上坂:4:3の画角でお届けしています(笑)。エコーはすごいし、音数は少ないし。でも、この曲があるからこそアルバムがすごく引き締まりますよね。 ――サウンドももちろんながら、歌詞もインパクト十分ですからね。 上坂:その歌詞も大正解だと思っています。 ――父親の死に目に会うことよりも声優アイドル泥レス大会観戦を優先する、この歌詞は大正解、と。 上坂:掟さんのエッセイ集(『男の!ヤバすぎバイト列伝』)を読んでいる感じがしました。 ――まさしく女子プロレスの対抗戦を観たい一心でアルバイトや借金の返済をバックれるお話だったし。 上坂:ともすればチープとも言われかねないサウンドに乗せて大マジメに歌ってこそのニューウェーブという思いもありますし、そもそもこの歌詞自体、作者の過去や切実な思いが反映されているわけですから、私も一切ふざけず、大マジメに歌わせていただきました。……でも「Hello my kitty」とこの曲が並んでると、聴く方はビックリしますよね。最新のロックから1980年代ニューウェーブへと時間が遡りすぎるというか。 ――確かに(笑)。このトラックリストはどなたが決めたんですか? 上坂:私です。最初須藤さんが決めていたんですけど、それを覗かせてもらったら「お前、絶対にテキトーに考えただろ」って感じのあまりにメチャクチャな曲順だったので……。 ――さすが“クズ”(笑)。 上坂:なので「ちょっと考えますね」って私が引き取って、苦心惨憺しながらこの曲順にしたんですけど、このアルバム、10曲目(「チチキトク スグカエレ」)以降の追い込みがすごいというか……。 ――怒濤のごとくアッパーな曲、しかも風変わりな曲が畳みかけてきます。 上坂:だから我がことながらすごくライブっぽい構成になったな、と思ってます。実際のライブやイベントでもオープニングに使っている「予感03」から始まってますし。来年2月にツアーがあるんですけど、この曲順のままライブをすればラクでいいんじゃないかなあ、っていう気がするんですよね。 ――「アルバム再現ライブ」って言い張って。 上坂:それいいですね! 観に来てくださる方もコールやサイリウムの色の準備がしやすいし。で、私は「Hello my kitty」が終わったら、ロマンポルシェ。での掟さんに倣ってキャベツを包丁でめった刺しにして……。 ――そこにもイズムを反映させますか。 上坂:あの演出はどうしてもやりたいです。しかもキャベツっていうのがいいじゃないですか。トマトだとめった刺しにしたらグチャグチャになっちゃうけど……。 ――葉物野菜だからパラパラと散るだけ。 上坂:後片付けがラクですよね。そこに掟さんの優しさを感じます。 ――改めてこのアルバムって本当に良作だと思うし、だからこそ今後、アーティスト・上坂すみれの立ち位置ってちょっと変わるんじゃないか、という気がするんですけど、そういう期待は? 上坂:売れたらいっぱいおカネが儲かるからうれしいですけど、そんなに気を揉むことはないかな、と思ってます。まあそんなに売れないですよ。私が売れるような世の中、私が困っちゃいますし(笑)。 ――でも上坂さんがニッチな番組で終わると思っていた『ポプテピピック』もヒットしたわけですし、可能性は十分ありますよ。 上坂:えー……。キングレコードをクビにはなりたくないのでそれなりの売り上げは出してほしいんですけど、万が一ヒットして歌番組とか呼ばれたらツラいですし……。 ――それこそ『MUSIC STATION』に出ましょうよ。 上坂:いや、あの番組はやっぱりTWICEさんたちのものというか……。私としてはナレーションさせていただいているくらいがちょうどいいと思ってます。でも売れたら、なにすればいいんですかね? 筋トレ? ――確かにレーベルメイトの水樹奈々さんをはじめ、売れているアーティストさんは体力作りに余念がないイメージはありますけど、順番が逆というか……。身体を鍛えて優れたパフォーマンスをするから、評価を集めて売れるんじゃないか、と。 上坂:でも今日から筋トレするのはイヤだなあ……。じゃあ、こうしましょう! 売れたら筋トレします! ジムでもなんでも通ってやりますよ!(笑) ――腹筋を6つに割ってやりますよ、と。 上坂:売・れ・た・ら・な! ●上坂すみれ(うえさか・すみれ) ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年、神奈川県生まれの声優・アーティスト。2012年、アニメ『パパのいうことを聞きなさい!』で本格的に声優デビューを果たし、以降『中二病でも恋がしたい!』『アイドルマスター シンデレラガールズ』『艦隊これくしょん -艦これ-』など数々の話題作で主役・メインキャストの声を務める。またその一方、2013年にシングル『七つの海よりキミの海』でアーティストデビュー。2014年には1stアルバム『革命的ブロードウェイ主義者同盟』、2016 年には2ndアルバム『20世紀の逆襲』を発表し、2016年には両国国技館でワンマンライブ「上坂すみれのひとり相撲2016~サイケデリック巡業~」を開催した。さらに2017年には自身の冠番組『上坂すみれのヤバい○○』がオンエアされた。そして2018年8月1日には3rdアルバム『ノーフューチャーバカンス』をリリースした。 取材・文/成松哲
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ノ―フューチャーバカンス

【通常盤】


【CD】
01. 予感03
02. POP TEAM EPIC
03. 恋する図形(cubic futurismo)
04. よっぱらっぴ☆
05. 地獄でホットケーキ
06. リバーサイド・ラヴァーズ(奈落の恋)
07. 祈りの星空
08. 平成生まれ
09. Hello my kitty
10. チチキトク スグカエレ
11. ヤバい◯◯
12. 文豪でGO!
13. どうして!ルイ先生
14. アンチテーゼ・エスケイプ
15. 踊れ!きゅーきょく哲学
16. ノーフューチャーバカンス

【初回限定盤A付属Blu-ray】
★MUSIC VIDEO
01. 恋する図形(cubic futurismo)
02. 踊れ!きゅーきょく哲学
03. リバーサイド・ラヴァーズ(奈落の恋)
04. POP TEAM EPIC
05. ノーフューチャーバカンス
★映像特典
ノーフューチャーバカンス MAKING
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