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“ラブホ界の帝国ホテル”は渋谷・円山町にあり/文筆家・古谷経衡

ル・ペイ・ブラン

「ル・ペイ・ブラン」の外観写真

キラキラ要素は無いけれど……

「ル・ペイ・ブラン」はイマドキのリゾート・ラブホが主流になりつつある円山町にとって、堅牢とも呼べるべき堂々の建て構えをみせる。地下1F、地上4F。全客室は26室。特筆すべきは部屋の安さとチェックイン時間の長さにある。平日最大20時間の滞在で全室6,500円均一という良心的値段は、円山町随一(いや破格帯)であろうことは私が保証する。  ただし、その内装・設備にあっては、如何にも女性雑誌で紹介されるようなキラキラとしたものではないことは留意されたい。だが、男が独りで泊まる事を考えた上で、この値段で駐車場が無料であることなどを総合的に勘案すると、「ル・ペイ・ブラン」以外の選択肢は無いように思える。  もちろん、リネン・清掃等は徹底されていてその古さを感じさせない清潔感がある。最近ではフロント脇に洒落た入浴剤無料のサービスも開始され、次回割り引きのクーポン券も配布されている。都下ラブホではまず存在しない「20分前までの空室予約」という貴重なサービスを有し、その経営努力は瞠目すべき水準で有り徹底されている。  しかし過去何十万円もこの宿に費やしてきた私は、この空室予約サービスを利用したことは無いので、ここでは予約に関する評価は差し控えたい。  なぜなら「独りラブホ」を極めたる者、ラブホへの入室の是非は、「湊川の決戦」のごとく正面堂々と行ない、事前予約などという卑怯な戦法に頼るべきでは無い―というのが、私のポリシーだからである。いやはや、返す返すもなにかにつけて大満足の宿。  閑話休題。「ル・ペイ・ブラン」には各室に「ボディソニック・システム」という1980年代後半の「最先端技術」がそのまま設置されている。「ボディソニック・システム」とは、かいつまんで言えばスピーカーから流れる音楽と共振する装置であり、これがベッドに設置されていると言うことは、眠っている間に振動と共に音楽がベッド伝いに流れるという代物なのである。  1996年8月20日付の産経新聞紙面『音楽・新世紀がやってくる!』によれば、横浜市立市民病院外科系病棟の看護婦、岩谷房子氏と元外科部長の池田典次氏のコメントとして「便通」「腸閉塞」「不安神経症」などに著効あり、「画期的な未来の音楽療法」としている。  しかし「ル・ペイ・ブラン」各室に設置されている「ボディソニック・システム」はご覧の通り、「入」の部分に明滅はあるが、装置自体は機能していないようである。部屋によってはまだ生きている場合があるかもしれないが、私の経験上、残念ながらまだアタリは無い。もしまだこのシステムが生きている部屋に入ることが出来れば、めっけ物である(アタった人は筆者まで感想求む)。  これらやや懐古的な設備をいま一度、現代的な視座で見学できるという付加価値も込めて、やはり「ル・ペイ・ブラン」100点を超える150点のラブホテル!堂々「ラブホ界の帝国ホテル」である。どうか読者諸兄、この宿に殺到してくれるな。 ●ラブホテルQ&A Q.ラブホテルって一度入室したらチェックアウトまで外出できないんですよね? A.できます。ラブホテル全般を「卑猥な性産業」とレッテルを張って悪評を広げんとする教育団体による悪質な嘘であり、反ラブホ・プロパガンダであります。いや勿論、外出できない宿もあります。ありますがそれが何だというのですか。チェックインの前にコンビニで必要物品を買い出ししておけば宜しい。ちなみに今回紹介した「ル・ペイ・ブラン」は、24時間外出自由。鍵を預けて颯爽と渋谷の街に男独りで繰り出すことが出来ます。この場合、私の定番ルートは「チェックイン(荷物置)→外出→映画鑑賞→回転寿司→寄宿→惰眠→独り酒しながら原稿書き→チェックアウト」と普通のホテルと変わらず、フロントのおばちゃんもニッコリ大笑顔。
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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