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和室を新設するラブホはなぜ増えた? さいたま市の穴場的ラブホを訪ねて/文筆家・古谷経衡

独りラブホ考現学/第4回

民意を無視して命名された「さいたま市」

「さいたま市」というひらがな名称に未だに抵抗があるのは筆者だけではあるまい。さいたま市は旧浦和市・旧大宮市・旧与野市の三市が合併して2001年5月にスタートした。所謂「平成の大合併(1995年~2006年頃)」で誕生した最大級の政令指定都市である。  この際、合併協議会は前述した旧三市合併後の新市名を公募した。その結果、1位は漢字名の「埼玉市」、2位は「さいたま市」であったが、協議会は最終的に2位の「さいたま市」を採用して現在に至っている。つまり「さいたま市」は多数の公募による民意を無視して命名された安易なひらがな地名なのである。

さいたま市桜区の「WIZ」

 このような経緯もあってか「さいたま市」というひらがな名称には、当時から批判が続出した。日本地名研究所(1981年設立=川崎市、谷川健一所長)は、平成の大合併期に乱立したひらがな地名について、次のような声明を発表している。 〈民俗研究家ら約250人が加盟する民間団体の日本地名研究所は、合併で生まれる市町村名について、安易な命名が横行しており、現状を警告するという内容の声明文を発表した。合併後の名前をひらがな書きにしたり、北や南などの方位を冠したりする命名を憂慮。さいたま市、東京都あきる野市、西東京市などを好ましくない例として挙げている。〉(2002年3月24日、読売新聞)  ともあれそんな因縁の「さいたま市」も、誕生から20年弱。いまのところ市称改名運動は起こっていないから、これは定着してしまったのだろうか。そんな今回、紹介するのはまさに同市内桜区にあるラブホテル「WIZ」。合併前の基準で言うと旧浦和市に立地する。  前回記事で紹介した越谷市の「ホテルカリフォルニア」(国道4号)と双璧をなすラブホ郡立地帯、国道17号線(練馬―埼玉)の中程に位置し、その上を首都高浦和大宮線が縦貫する。都心に隣接する埼玉南部屈指のラブホテル街である。  紹介の理由は、この地帯で最も良心的な価格帯であることと、珍しく和室があるラブホである、という二つの理由である。
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和室のあるラブホテルが増えている理由
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

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