ラブホは独りで泊まる大都会のオアシスであり、快適空間だ/文筆家・古谷経衡
―[独りラブホ考現学]―
独りラブホ考現学/第1回
かくいう私は、独りでラブホテルへの宿泊や休憩に、これまでの人生で少なく見積もっても最低で300万円を使ってきた。正確に数えたことは無いが、現実的には500万円に迫ると思われる。ここで重要なのは「2人で」ではなく「独りで」ラブホテルを使用する点である。なぜ「2人」で入ることが前提のラブホテルに独りで宿泊せねばならないのか。別段、入室してからその手のサービスに電話をして異性を呼び出すわけでは無い。私は純然たる宿泊、休憩の名目でこれまで上記の巨費を、独りラブホテルに費やしてきたのである。
なぜか。私は典型的な夜型人間で、かつ移動のほとんど全てを自家用車に頼っている。私の標準的な一日のスケジュールは、朝4時まで原稿を書き、同5時頃就寝。昼過ぎに起きて風呂に入る―、というスタイルである。
もうお気づきであろう。通常のシティホテルやビジネスホテルは、私のような夜型人間のライフスタイルには全く適応していない。一般的なホテルのチェックインは14時から15時の間。チェックアウトは通常午前10時である。朝の5時に寝ては、チェックアウトまで残り5時間も無い。私のライフスタイルに合わせたホテルでの充実した睡眠時間を確保するには、はじめからシティホテルを連泊するしかない。そうすると、料金は当然二倍か、それ以上かかる。実に不経済だ。
その点、ラブホテルには細かい宿泊の選択肢がある。地域や場所によって異なるが、宿泊の場合、チェックインは概ね夜19時から(第一部)、あるいは23時過ぎからの(第二部)の二段構え構成。チェックアウトはたっぷり遅めの15時、ないし「チェックインしてから12時間~16時間の滞在を保証」というプランもある。夜型人間にとってはこれほどの救いはない。究極的にはチェックアウトの時間を気にしなくても済むのがラブホ最大の利点だ。
もっと嬉しいのが平日のサービスタイム。朝6時にチェックインすれば、夜19時まで宿泊料金よりも廉価で惰眠をむさぼることが出来る。しかもその廉価度合いというのが首都圏近郊のロードサイドに於いて概ね五千円未満である。訪日外交人が急増し、ホテル需要が逼迫する中、五千円を出しておつりが来る宿泊施設は、本邦に於いてラブホテルしか無いのだ。
浮き彫りになるビジネスホテルの貧弱性
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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