“男らしさハラスメント”で病んでいく男たち
女性たちは、女性であるがゆえの生きにくさを声高に訴えるようになった。一方、男性は男性特有の苦労はあれど押し黙ったままだ。その置かれた窮状と声を上げられない理由に迫る。
「変身願望に男も女もない」そんなセリフとともに『美少女戦士セーラームーン』の戦士に扮したりゅうちぇるが登場した、「モンスターストライク」のCMが放映され、「ジェンダーレスの象徴」として一躍話題になった。また、白岩玄の小説『たてがみを捨てたライオンたち』では、専業主夫になるか悩む男や、強さを求めて弱音を吐けない男など“男らしさ”に苦しむ男たちの姿が描かれ、多くの男性から共感を呼んでいる。
メディアのなかだけではなく、
「男は強くあれ。一家の大黒柱であれ」との価値観に息苦しさを感じる人々は決して少なくない。
「『男であることは、しんどい』。そんな言葉は、なかなか飲み会でも気軽に吐けないです」と、苦笑いするのが大手通信会社に勤める田中正雄さん(仮名・46歳)だ。
「昔から競争が苦手で、『出世にさほど興味はない』と同僚に呟けば、『男なのにそれで終わっていいのか?』『ビジョンがない』と馬鹿にされる。腹は立ちますが言い返せないジレンマもあります」
こうした悲鳴を上げるのは、決して田中さんだけではない。
「子供が熱を出したときに、会社を早引けして僕が迎えに行ったら、『嫁に行かせればいいのに。男のくせに妻が怖いのか』と同僚からの陰口が」(43歳・食品)とパタニティハラスメント(父性の侵害)を受けることもあれば、「出世コースを外れてはや数年。部下から『給料泥棒』『あのオッサンは使えない』と陰口がひどい。お局にはみんな気を使うのに、なぜ出世してない男は冷遇されるのか」(39歳・流通)と逆パワハラに悩むケースも。
それに対して「いかに多様性が叫ばれても、職場で男らしさを尊ぶ姿勢はまだ残る」と語るのは、人材育成企業代表の前川孝雄氏。
「人手不足で仕事は増えているのに、社会保障費や税金負担の倍増で手取り給料は上がらない。多くの人が働く意欲を失うのは当然なのに、職場ではいまだ男性は家庭より仕事優先で、アグレッシブに働くべきとの風潮が強い。男性が育休を取ったり、出世に意欲的でないと『やる気がない』と評価を下げる企業もまだ多いです」
問題が起こるのは家庭も同様だ。
「『最近の男性はもっと家事に参加するものだ』と妻に言われ、帰宅後に洗い物をすれば『やり方が違う』と怒鳴られる。これは家事ハラでは」(43歳・IT)
「会社の業績が悪化し、給料が激減。いまや上場企業で働く妻のほうが高年収で、家に帰れば『男のくせに稼ぎが悪い』となじられる。それでも、以前同様、家賃や外食費は全部僕持ち。文句を言ったら『男が出すのは当たり前。私が稼いだお金は私のもの』とキレられました。そこも男女平等では?」(45歳・SE)
誰にも弱音を吐けずに病んでいく男たち……
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