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なぜ私たちはイライラしているのか? スマホが生んだ症候群

― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

日本人のイライラと「自分はこんなレベルじゃない」症候群

 新年、明けましておめでとうございます。今年こそ、この連載をまとめた新しい本を出したいと思います。  さて、『ニュース23』という番組から「どうして日本人はこんなにイライラしているんでしょう?」というタイトルのゲスト出演を頼まれました。  打合せの席で、ディレクターさんから素朴に「どうしてなんでしょう?」と聞かれました。 「ふむ」と考えました。  もちろん、先の見えない経済とか割引計算がメチャクチャな消費税という金銭的な不安によってイライラしているという理由はあるでしょう。  同時に、やっぱり、スマホの影響が大きいんじゃないかと思ってしまいました。  電車に乗ると、もう、殆どの人がスマホを見ています。マンガ雑誌や新聞を見ている人は減りました。  スマホは、「見たいものだけを見れる」という奇跡のような状態を実現しました。  右翼さんは右翼的な言説だけを、左翼さんは左翼的な言説だけを見ていれば、時間が過ぎます。オタクはオタク的な言説や動画を見ていれば、一生を終えることが可能になりました。これ、考えてみればすごいことです。  つまりは、「自分が気持ちいいこと」にだけ、「どんな状況でも」接することが可能になったのです。  ちょっとした待ち時間も、電車に乗っていても、歩いていても、退屈な飲み会でも、授業でも、会議でも「自分が見たいもの・読みたいもの」だけ、接することをスマホは可能にしたのです。  新聞やテレビは、自分の見たいものと同時に、見たくないものも提示します。興味のないもの、無視したいものも、有無を言わさず突きつけます。  でも、スマホはそんな無粋なことをしません。  そんな快適な環境から、異物が満載の日常に放り出されて、イライラしない方がおかしいと思うのです。
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自分の評価が「見える」化した時代
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この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

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