更新日:2019年07月05日 15:02
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日本語の悪口「ブス・デブ・ババア…」は世界基準では許されないことにハッとした/鴻上尚史

日本人は“愛ある罵り”を使いこなしているのか?

 日本語の悪口でポピュラーなのは、「ブス」「チビ」「デブ」「ガリ」「ハゲ」「ジジイ」「ババア」などです。  これは「よくよく考えると、容姿や年齢等、その人がどうしようもない普遍的な特徴に触れた、世界基準では許されない罵り言葉」だとブラスさんは書きます。  ちょっと、ハッとする指摘です。  ロシア語には、「ブス」のような女性の容姿を気軽に罵る言葉はないし、英語にも「醜い女性」というような直訳的な言い方しかないだろうとブラスさんは書きます。  だから、容姿や体型に関する日本人の罵り言葉を聞くと、外国人は「酷い」と感じてしまうのだと解説しています。  原稿の後半では「日本人がこんなに気軽に女性の容姿を罵ることが出来るのも、日本に『空気を読む文化』があるからだと考えています」と書きます。 「空気を読めるからこそ、それを言ってはいけない相手、言ってはいけない場面で言葉を使い分けることが出来るのです」とし、「また、容姿に関して不必要に配慮をしすぎることで、距離の遠い関係となってしまうことを防ぐような使い方もされますよね。『愛のある罵り』を使いこなすことが出来るのは、世界中で日本人だけかもしれません」とまとめています。  日本人としては、このまとめ方はどうも好意的過ぎているんじゃないかと感じます。  僕達が、相手の行動や状況ではなく、なぜ、普遍的な特徴を罵るのか。そして、それが社会的に許されると思っているのか。  じつに興味深い問題だと思います。  もっとも、「ブス」という言葉もだんだんと肩身が狭くなっています。昔は、おおっぴらに「おい、ブス」と言っていた人達が、陰でこそこそと「ブスのくせに」ぐらいに引っ込んだ感じはします。  この文章が面白かったので、ツイッターで紹介したら、知り合いの女性が「日本では、議論の際に批判の対象が『意見・考え方・行為』ではなくて、しばしば『相手の人格』に及んでしまうのと似てますね」と書き込みました。  なるほどなあと思いました。  日本語における悪口の問題は、考える意味のあることだと思います。
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