更新日:2023年04月18日 11:33
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「ウンコが出た」報告をしてくる読者との、幾星霜に及ぶ言葉なき対話――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第59話>

あれから数年。久々に来たウンコ報告に込められた意味とは

 ただ一つだけ言わせてもらうと、「patoさんに怒られるかって怖かったですけど、黙って受け取り続けるpatoさんに嬉しい気持ちになりました」ここな、受け取り続けるしかないから、別に許容していたわけではないから。  なんにせよ、彼が勇気を出せたことは嬉しいことだ。  「結婚することになりました。ウンコも出ました」  数か月して結婚報告とウンコ報告が同時にきた。そして、それ以来、彼からメールも、ウンコ報告も来ることはなかった。相変わらず狂っているやつだ。  それからさらに莫大な年月が経ち、久々に彼から来たのが冒頭のメールだ。  「もうウンコは出ません」  心がざわついた。  もしかしたら、彼が自分で悩み、勇気を出し、ウンコ報告をし、ウンコ報告によって築き上げた幸せが壊れたことを暗示しているのかと思った。つまり、結婚した彼女と破局した、あるいは不幸なことがあった、そういうことかもしれない。もしくは、本当に深刻な病気か何かで、もうウンコをできなくなったのかもしれない。  いずれにせよ、彼が悩み苦しんでいる状態であることはわかった。  何か言葉をかけなければいけない、もっと詳しく話を聞かなければならない。そう心が逸ったが、すぐに我に返った。僕らはそんな関係ではなかったし、言葉を交わす術を持っていなかった。  彼はずっと、ウンコ報告をしながら、一人で悩み、苦しみ、解決していった。どんな大変なことがあろうとも、きっと彼は大丈夫なのだろう。彼はウンコ報告をしながらずっと自分に向き合っていた。ウンコ報告とはそういう側面もあるのだ。  彼がこの文章を読むのかは分からない。それでも僕は今日もあのメッセージボックスを眺める。きっと、ウンコ報告でなくても、何かに向き合ったメッセージが来ると信じている。それを待つ間は、ずっと年一万円を払ってホームページを維持しようと思う。年一万だぞ、一万。早く送ってこい。 ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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