更新日:2023年04月18日 11:33
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「ウンコが出た」報告をしてくる読者との、幾星霜に及ぶ言葉なき対話――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第59話>

全てがウンコのための伏線みたいに見えてしまう

 恋の苦しさが彼を衝き動かすのか、またメッセージが来るようになった。  「今日は好きな人の話すことができました。なんだか彼女の方も悩んでいるみたいですが、安易に相談に乗るよ、なんて言えませんでした。だって、自分ごときが力になれることなんてないですもの。ただ、なんとかしてあげたい気持ちはあるんですけどね。人の心というものは難しいものです。ウンコは出ました」  もうお前、ウンコ報告やめろよ。けっこう重厚な恋愛相談をしているのに、全てがウンコのための伏線みたいに見えてしまう。  「今度、彼女と食事に行くことになりました。緊張しています。どこかいい店はないですかね。こうやってネットを介して相談しているとなんだか電車男みたいですね。いや、ウンコ男ですかね。そうそう、今日はウンコ出ませんでした」  ウンコ報告はともかく、恋愛の方面に大きな動きがあったようだ。なんだか嬉しいような、楽しみのような、怖いような、複雑な気分だ。  「大変です。彼女と食事に行きましたが、彼女から告白されました。もうびっくりです。ウンコは出ました。ただ、ちょっと考えさせてくれって答えました。なんだか怖いんですよね。はっきりと分からないですけど」  ずっと文末に入れていたウンコ報告を途中に入れてくるな。  「昨日の話ですが、なぜ怖いかっていうと、彼女のことが本当に好きだからです。安易に付き合ったりして彼女を傷つけたり、悲しませたり、そういうことが怖くなったのです。私なんかでいいのでしょうか。彼女は傷つくのではないでしょうか。ウンコは出ました」  すごい深刻なのことになってきた。彼は彼女を思いやるあまり、よく分からない思考の深みに嵌ってしまったようだった。こんなにも他者の気持ちを慮ることができるのに、どうして僕にウンコ報告を送れるのか。なんか怖いよ。  僕は彼に何かを伝える術を持たない。ただ彼からのウンコ報告を受け取るだけだ。けれども、彼とはもう何年も会話以上の会話をしてきたような気がする。  「私がpatoさんにメッセージを送ることは一つの勇気でした。いつも文章を読んでいてpatoさんから勇気をもらいました。何か恩返しができないか、と考え、私のウンコを報告することにしました。patoさんに怒られるかって怖かったですけど、黙って受け取り続けるpatoさんに嬉しい気持ちになりました。ウンコ報告をし続けてよかった。勇気を出して送って良かった。そうですよね。怖がってちゃダメです。彼女に返事をしようと思います。ありがとうございます。今からウンコをして、それから電話します」  勝手に送ってきて、勝手に解決しやがった。
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あれから数年。久々に来たウンコ報告に込められた意味とは
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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