カーライフ

「ルーレット族がガラガラ首都高を暴走報道」の間違い。彼らはルーレット族ではない

 4月28日付の朝日新聞デジタルを見て、軽い衝撃を受けた。犯罪の欄に、「ガラガラ首都高、ルーレット族が暴走 バトルに見物客も」という記事があったのだ。それによると、「東京都心の首都高速道路で、夜な夜な騒音をまき散らして暴走しながら周回を繰り返すルーレット族が活動を活発化させている」とのことである。  緊急事態宣言以降、首都高がガラガラであることは間違いない。クルマ好きなら、つい走りに行きたくなる状況だ。それでルーレット族が復活したのか? 私の認識では、いわゆるルーレット族はほとんど絶滅寸前。ここ10年以上、首都高でそんなに飛ばしているクルマに出会ったことはない。それが復活しているならば、確認せねばなるまい。

ガラガラの夜の首都高

本当にルーレット族が復活しているのか? 夜の首都高に行ってみると……

 翌29日の夜8時過ぎ、首都高に乗り入れた。ガラガラである。本当にガラガラだ。これほど交通量が少ない首都高を見るのは生涯初めてかもしれない。私としては、32年前の昭和天皇の「大喪の礼」当日が伝説的なガラガラ日だが、それを上回る勢いで交通量が少ない。  都心部では、東京タワーやレインボーブリッジ、お台場の観覧車などが、医療従事者への感謝のブルーでライトアップされていて、とてもきれいだ。「ステイホーム」しているせいか、ベイエリアのタワマンの窓の明かりも、いつもより輝いている。  が、ルーレット族は走っていない。そこで、カーマニアの聖地・辰巳PAに入ってみた。

ガラガラの首都高にルーレット族の姿はない。写真はレインボーブリッジ

 おお、スバラシイ! まるでスポーツカーの見本市!  朝日新聞デジタルの記事では、国産の改造車が多かったが、それは先週の土曜日(25日)夜の図。今日は輸入高級スポーツカーが主流を占めている。具体的にはポルシェ、フェラーリ、ランボルギーニ、アストンマーティン、ロータスなどである。フツーのBMWで来た自分は、このなかでは完全に一般人だ。  彼らが朝日の言うルーレット族なのか?

辰巳PAには高級輸入車がズラリ!

 そもそもルーレット族とは、何なのか? 以下が朝日新聞デジタルの解説である。 主に時速50~60キロ規制の首都高の環状道路を高速度で走行し、周回の早さを競う集団。危険な運転や騒音が問題になっており、タイヤを滑らせて走行する「ドリフト族」などとともに、警視庁は「違法競走型」として暴走族の一つの類型に位置づける。1990年ごろから目立つようになった。  でも、今、首都高にいるのは違うだろう。彼らはいつも辰巳PAに集まっている単なるカーマニアたちだ。

本当のルーレット族は漫画の主人公のようにスピードに命を懸けている

 近年のカーマニアは、はっきり言ってあまり飛ばさない。ぜんぜんスピードを出さないと言ってもいい。ただクルマが好きなだけである。クルマ好きの間では、私を含め、スピードの重要性が著しく低下しているのである。

クルマも、駐車スペースに一定の間隔をあけて止められている

 改造車だって飛ばさない。逆に驚くほどゆっくり走っていたりする。あれはスピードを出すための改造ではなく、カーマニアの1つの自己表現。違法改造だと言われればそうかもしれないが、カーマニア=「周回の速さを競う集団」ではない。少なくとも私は、そういう集団に近年とんとお目にかかったことがない。グルグルと周回を繰り返すクルマも激減しており、集まって談笑したら、軽く首都高を流してすぐ帰るのが主流だ。  朝日新聞デジタルの記事には動画もついており、「前のクルマを追い抜くルーレット族」というテロップが入れられていたが、見たところ、それほど速い速度で抜いてはいなかった。  事情を知らない人が動画を見ると、初日の出暴走のような集団が首都高のPAに集合し、それを警察が検挙している印象になるが、少なくとも私が見た4月29日夜の光景は、善良なるカーマニアが公共の場に集まって談笑していただけだ。ジョギング仲間が集うように。この緊急事態宣言下に「不要不急の外出は控えろ!」と言われればそれまでだが、彼らの多くはマスクも着用しており、社会性は高かった。

公園でジョギング仲間が集って談笑しているのと同じ。マスクもほとんどしている

 辰巳PAを出て、制限速度でゆっくり走り、“高速度で追い抜くクルマ“を待ってみたが、2台がそこそこの速度で私を抜いて行ったものの、あとは2台の仲間が2組、制限速度+20kmくらいでゆっくり抜いていっただけ。そもそも首都高ではふだんから、それくらいの速度以上でクルマが流れている。

私を抜き去ったクルマ。本当のルーレット族を知っている私からすれば、今、首都高に集まっているのはルーレット族ではない

 私は15年ほど前、本物のルーレット族の助手席で取材をしたことがあるが、それはもう本当にとてつもなく速かった。死を覚悟しなければ、到底助手席なんかに乗れたもんじゃない。彼らはマンガの登場人物のごとく、スピードに命を懸けていた。その基準からすると、あれはルーレット族なんかではまったくない。  午後9時過ぎ、新環状を1周して辰巳PAに戻ってみると、すでにパトカーが出動しており、カーマニアたちは激減していた。私も取材を終了して家に戻った。  もちろん、もっと遅い時間帯には飛ばすクルマもいたかもしれないが、それは確認できなかった。が、辰巳PAに集まっていたのは、大部分は善良なカーマニア。それを十把一からげに‟ルーレット族”とするのは、大メディアの決め付けだ。  その後、首都高は、5月1日午後5時から10日の午前9時まで、辰巳PAに加えて芝浦と箱崎のPAを閉鎖することを発表した(トイレなどの施設の利用は可)。 取材・文/清水草一1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中。清水草一.com
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