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コロナ禍の必読書?「散歩」の魅力を描いた谷口ジロー『歩くひと』が復刊!

『散歩の達人』という雑誌がある。交通新聞社発行でキャッチフレーズは〈大人のための首都圏散策マガジン〉。その『散歩の達人』が、新型コロナ感染拡大以降、「東京周辺自転車さんぽ」「ご近所さんぽを楽しむ15の方法」「東京さんぽ図鑑」「朝を歩こう」と、散歩特集を連発している。  いやいや、『散歩の達人』が散歩特集なのは当たり前でしょ、と思われるかもしれない。しかし、普段の同誌は「戸越銀座・武蔵小山・中延」「所沢・飯能・狭山・入間」「明治神宮と神宮外苑」「荻窪・西荻窪」といったエリア特集を組み、その地域のおいしい店や面白スポットなどを紹介するのが常なのだ。  そこに新型コロナが来た。自粛休業する店が増え、対面取材もままならない。繁華街に出かけることや県境を越えた移動も控えろと言われては、従来のようなエリア特集は不可能である。そこで苦肉の策というか原点回帰というか、誌名そのまんまの「散歩」を特集することになったわけだ。

読めば散歩したくなる名作『歩くひと』が復刊

歩くひと

『歩くひと 完全版』(小学館)(c)パピエ

 実際問題、遠出ができず飲み会もできずカラオケもスポーツジムもちょっと……という状況において、散歩は気晴らしと運動不足解消を兼ねた一石二鳥の手軽なレジャーである。このコロナ禍を機に、散歩に目覚めた人も少なくないのではないか。  そんな散歩初心者からベテランの散歩愛好家まで、さらには「ただ歩くだけで何が楽しいの?」という人にもおすすめのマンガがある。  読めば必ず散歩したくなるそのマンガは、谷口ジロー『歩くひと』。1990年から91年にかけて連載された名作が、このたび完全版として復活した。  主人公は、自然豊かな郊外の庭付き一軒家に引っ越してきた40歳前後とおぼしき男。妻が荷ほどきしているのを尻目に「ちょっと歩いてくるよ」と散歩に出る。川面を跳ねる魚、道端や塀の上にたたずむ猫、樹齢百年以上ありそうな巨木……。そんなものを眺めながら行き着いた雑木林では、バードウオッチングをする初老の男に望遠鏡を覗かせてもらう。すっかり満足の態で家に帰ると、なぜか犬がいる。どうやら前の居住者が置いていったらしく、縁の下に隠れていたのが出てきたのだと妻は言う。 「飼ってやりたいなあ」「そうだね 飼ってやるしかないか」  そんなふうにして始まった新しい土地での生活のなかで、あるときは犬を連れ、あるときは図書館に行くついでに、またあるときはゴミ出しの帰りに、気まぐれな散歩を楽しむ男の姿を淡々と描く。
歩くひと1

『歩くひと 完全版』(小学館)より(c)パピエ

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極端に少ないセリフと精緻で雄弁な絵
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歩くひと 完全版

フランス文化勲章シュヴァリエ受章の漫画家・谷口ジロー氏が、世界に「発見」されることになった名作が、初の全エピソード収録&カラーページ再現の完全版として登場!
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