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作家こだま、鬱をきっかけに性格変わる「むしろポジティブになった」

爪切男、初めてこだまに相談をする

――今まで話を聞いてきて思ったんだけど、やっぱりこだまさんは、ここ最近でいろいろと心境の変化があったんだね。それが今回の『いまだ、おしまいの地』には詰め込まれてると思う。 こだま:そうなのかな、そうだといいな。自分ではよくわからないけど。 ――そんなゆるがない強さを手に入れたこだまさんを頼って、真面目な相談をしてもいい? こんなの初めてだけど。 こだま:いいよ、何? ――誰にも言ってなかったし、ネットにも書かなかったけど、このコロナの間にさ、俺、けっこう心をやられてしまって。自分の文章に自信がなくなって本気で作家を辞めようとしたの。まだ1作品しか書いてないペーペーが生意気なんだけど。友達や担当編集さんの力で今はなんとか持ち直したんだけど。また、こういう風に心がくじけるようなことがあったらどうしたらいいかな? こだま:ごめん、私、人生相談受けるの本当に苦手なんだよね。 ――(笑)。 こだま:まぁ、とにかくこういう話も変にいい話にしないほうがいいよ。 ――こだまさんにはかなわないな。このままずっと好きにやっとくれ。

陰と陽

 インタビュー終了後、この記事に使用する私とこだまの2ショット写真を撮ることに。カメラマンの指示に従い、こだまは街灯に照らされた明るい場所に、私はそこから少し離れた暗がりに立つ。すると、こだまは私に「陰陽だ。私が陽で、爪さんが陰」と言ってニッコリと笑った。  出会った頃の彼女は「自分は日陰でいるのがお似合いなんです」と謙遜ばかりする人だった。あのこだまがこんな素敵な嫌味を言えるようになるなんて。  もう誰に嫌われてもいいだろ。  自分のやりたいようにやれよ。  お前はそのままずっと日向で咲いてりゃいいんだ。  私と同じミーハーで根っからの目立ちたがり屋なんだから。  これからもちょうどいい距離感でうまくやっていこう。  ただ、私を日陰者扱いしたことはずっと忘れない。  今回のインタビューを通じ、お互いをより深く理解できた私たちを祝福するように、空には綺麗なお月さまが輝いていた。いや、全然綺麗な月ではなかった。散々こだまに注意された、何でもいい話にまとめようとする悪い癖は当分直りそうにもない。 取材・文/爪切男 撮影/杉原洋平 こだま 主婦。2017年1月、実話をもとにした私小説『夫のちんぽが入らない』でデビュー。たちまちベストセラーとなり、「Yahoo! 検索大賞」(小説部門)を2017・2018と二年連続で受賞。同作はゴトウユキコにより漫画化(ヤンマガKCより発売中)され、連続ドラマにもなった(Netflix・FODで配信中)。二作目となるエッセイ『ここは、おしまいの地』では第34回講談社エッセイ賞受賞した。 爪切男 1979年、香川生まれ。文筆家。2016年より、情報サイト『日刊SPA!』で『タクシー×ハンター』を連載。同連載を大幅に加筆修正してまとめた私小説『死にたい夜に かぎって』を2018年に出版。これまでのままならない恋愛経験をポジティブに綴った本作はネットを中心に大きな話題を呼ぶ。同作は2020年に賀来賢人主演で連続ドラマ化された。
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