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「また東スポか…」は間違い?同業の記者たちが舌を巻く夕刊紙の取材力

独特な取材手法

 こうした爆弾ネタを取ってくる夕刊紙だが、それもやはり取材力の賜物だという。その手法は一般紙の記者ではなかなかマネのできないものだという。前出の記者は苦笑交じりに、その取材手法を語ってくれた。 「ある夕刊紙の記者は、球場に来ないんですよ。その記者は試合が始まる時間になると監督の家に行って、奥さんと子供たちと一緒にメシを食いながらテレビで試合を観て、監督の帰宅を待って話を聞いて記事にしていたんです。こんな食い込み方はそうそうマネできない(笑)。そりゃ、我々なんかとは比べものにならないネタを連発してましたよ。  それとしつこさですね。監督が車に乗り込むまで付いていって、車に乗り込んでコメントを取ろうとしたところ、監督がドアを閉めたんですよ。そしたら、ドアに頭を挟まれてそのまま車が出そうになったことがあり、現場が騒然となったことがある」

うかうか立ち話もできない

 どんなことでもネタにされてしまうので、記者たちも夕刊紙記者に対しては身構えてしまうこともあるという。野球番組を制作するテレビ関係者はある日の夕刊紙を見て驚愕したという。 「選手と飲みに行ったんですよ。その時にいろいろと球団の内情を聞いたりしたんです。その数日後に球場で顔見知りの夕刊紙記者と喫煙所で一緒になったので、立ち話でその話を軽くしたんですよ。そしたら翌日、私が立ち話で喋った内容がそっくりそのまま『関係者によると~』と書かれていた。さすがに『記事にするなら言ってよ』と怒ったんですが、『面白かったんで書いちゃいました』って(苦笑)」  生き馬の目を抜くとはこのことか。これではおちおち立ち話もできなさそうである。

勝手に火消しされてしまうネタ

 だが、そこまでして取ったネタであっても、ネット上では「またか……」と言われることも少なくないのである。同業他者としては思わず同情してしまうような話である。では、実際に夕刊紙のネタについて、球団関係者はどう見ているのだろうか。ある球団関係者はこう語る。 「正直、一発目のネタ、初出になった媒体が夕刊紙だと気分的に楽ですよ。ネット上では勝手に火消ししてくれますから。ゴシップ系の週刊誌も同じですね。ある球団で指導者によるパワハラ行為があり、選手がノイローゼのようになってしまったんです。そのことに絡んで、チームで内紛が起きてしまったことをある夕刊紙が書いてしまったんです。  球団も事態を重く観て、取材されたときに出すコメントやその後のメディア対応を協議したようですが、蓋を開けてみるとネット上では『妄想記事』や『また……か』と。結局、ネット上では勝手に火消しされてしまった恰好に。球団も内々にこのコーチに厳重注意をして幕引きとなったんです」  とにもかくにも夕刊紙は一般紙とは違った視点、手法でネタを集めているのは確かなことである。これからは「また東スポか」とか、「ゲンダイ得意の妄想記事」なんて一蹴せず、「これを言ったのはまさか……」というように、ネタを深掘りして楽しんでみてはどうだろうか。 取材・文/谷川一球
愛知県出身。スポーツからグルメ、医療、ギャンブルまで幅広い分野の記事を執筆する40代半ばのフリーライター。
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