ニュース

「伝統芸能」とも呼べる、与野党間の談合こそが、日本政治の本質だ/倉山満

言論ストロングスタイル

(右から)会談に臨む自民党の森山裕国対委員長と立憲民主党の安住淳国対委員長。彼ら「森山・安住ライン」によって有象無象の利害調整が行われている 写真/時事通信社

「伝統芸能」とも呼べる、与野党間の談合こそが、日本政治の本質だ

 世界も日本も分断されている。つい最近まで、世界では親トランプか反トランプかに分かれ、いわゆる保守とリベラルの二大潮流の争いは埋めがたい溝となっている。今でもコロナウイルスをめぐり、かたやペストのように危険な伝染病と看做す論者もいれば、もう一方でただの風邪だと決めつける人もいる。その争いは宗教戦争の如く、相手を全面的に否定しなければ、自分の存在が否定されるとの恐怖感を抱いているようだ。そして、保守陣営もリベラル陣営も、紋切り型の主張で相手をののしるのみだ。  我が国でも8年間、親安倍か反安倍の争いが繰り広げられた。日本におけるリベラルとは「安倍」の人格と行動を全否定し、同じく日本における保守とは「安倍さん」を否定するリベラルの悪口を言いふらすことだった。安倍前首相の最大の貢献は、表舞台から去ることで、このような不毛な対立を終わらせたことだろう。  菅義偉内閣になって、最も「安倍ロス」を感じているのは、リベラル勢力の代表である立憲民主党のようだ。国会では、総務官僚が利害関係のあるかもしれない菅首相の長男の接待を受けたとの疑惑が追及されているが、今の野党には安倍内閣に向けたような殺意は見受けられない。  自民の応援団のネトウヨも、立民の支持者のパヨクも、安倍内閣の時と勝手が違っているようだ。それはイデオロギーを前面に押し出すかのような安倍首相と違い、あまりにも実務的な、悪い言い方をすれば「それ、総理大臣が言うことか?」と言いたくなるような小さな公約しか掲げていないかに見える菅首相では、立憲民主党も張り合いがないからだろう。しかし、それは現象であって本質ではない。では、本質とは何か。

「森山・安住ライン」の決定が、日本国の意思決定となり、国会を機能させている

 その前に、日本政治を語る論者から「森山・安住ライン」という言葉を聞いた人が、何人いるだろうか。日本の政治は、左右のイデオロギー対立で動いているのではない。有象無象の利害調整で動いているのである。森山・安住の2人がすべてを決めている訳ではないが、「森山・安住ライン」で決まったことは、日本国の意思決定となるのだ。これが現実の日本政治だ。  政治のプロなら誰でも「森山・安住ライン」など周知だが、一般に紹介したアナリストとなると皆無だ。この機会に解説しよう。  森山裕は、自民党の国会対策委員長。安住淳は、立憲民主党の国会対策委員長。各政党には国会運営を司る国会対策委員会(国対)がある。与野党では出世コースであり、実力者が座るポストだ。そして談合の温床であり続けた。
次のページ
55年体制のはじまり
1
2
3
1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

噓だらけの日本古代史噓だらけの日本古代史

ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作は、日本の神話から平安時代までの嘘を暴く!


記事一覧へ
おすすめ記事