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かつての高度経済成長の、思い出に浸るのは勝手だ。すべきことを終えた後なら/倉山満

言論ストロングスタイル

東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の失言は、現職総理の頃から日本を「天皇を中心としている神の国」と表現し物議を醸した「神の国発言」など、枚挙にいとまがない 写真/時事通信社

かつての高度経済成長の、思い出に浸るのは勝手だ。すべきことを終えた後なら

 森喜朗東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の失言が話題となっている。  ただ、森元首相は現職総理の時代に「今日の失言」のコーナーができるほど、取るに足らぬ発言を星の数ほど繰り返した。挙句の果てに「森首相が応援演説に来た候補者は落選する」とまで言われ、事実その通りになった御仁である。「何をいまさら」としか言いようがない。  ただ、コロナ禍で日本国民のほとんどがイライラしているのに、「芸能人が聖火ランナーをやると人が集まるので、田んぼを走れ」である。慎重な政治家は「その言葉を思い浮かべてはならない」との訓練をするそうだが、それを森元首相に求めても無駄だろう。  そもそも、今回の東京オリンピックは呪われている。  遡ること8年前の2013年。時の安倍晋三首相は連戦連勝、無敵の状態だった。金融緩和によるアベノミクスで、景気は劇的な回復軌道にあった。選挙は全戦全勝、安倍首相の掲げる「戦後レジームからの脱却」も本当に実現できるのではないかと、期待を抱かせるに十分だった。たった一つの落とし穴に嵌まりさえしなければ……。  その落とし穴とは、消費増税である。増税は景気に冷や水をかけるなど、子供でも分かる。ただし、増税さえしなければ、アベノミクスは成功し、何事をもなしえる政権になれた分水嶺だった。  そんな時、安倍首相と自民党は、東京オリンピックの招致に熱中し、成功した。かつての高度経済成長の思い出に浸るのは勝手だ。やるべきことをやった後なら。  当時、財務事務次官の木下康司は、首相の安倍に消費増税8%を迫っていた。財務事務次官が必勝の信念で号令をかければ、霞が関の官僚で逆らう者はいない。それどころか、自民党の9割、公明党のすべて、民主党(当時)の幹部全員、財界三団体、連合、六大新聞紙とキー局が、木下の威光を恐れ、安倍首相に増税を迫った。そして安倍は屈服した。

その頃、自民党は何をしていたか

 その頃、安倍政権を支えるべき自民党は何をしていたか。「オリンピックが決まったので増税だ」とはしゃぎまわっていた。要するに、オリンピックの経済効果が見込めるので、増税による景気悪化の影響は極小化されると勘違いしたのだ。オリンピックを待つまでもなく、’14年4月に消費増税8%を実施した日から、景気は劇的に悪化したのだが。  ここに至ってようやく安倍首相はさらなる金融緩和を行い、10%への消費増税は延期した。結果、当初のように劇的ではなく緩やかではあったが、景気は回復軌道に戻った。長期政権への足掛かりとなる。  そして、安倍首相は「一強」とおだてられ、史上最長政権を築いた。当たり前だ。決戦場で勝負できない総理大臣など、何も怖くない。8年どころか何十年でも総理大臣をやってもらって結構。安倍は任期中に二度も増税を延期したが、そのたびに国政選挙で信を問うた。官僚からしたら笑いが止まらない。
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コロナが危険な伝染病なら、東京五輪は中止すべきではないのか?
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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