仕事

渋沢栄一に学ぶ、相手を説得するテクニック。「いや」「でも」と否定しない

気持ちは同じであることを強調

商談

※写真はイメージです(以下同)

 次に大事なのは、相手に対して「自分も同じ思いだ」と語ることである。  意見が対立しているといっても、すべての点で相違しているわけではない。例えば、社内でどれだけ意見が対立したとしても「会社にとってプラスになることをしたい」という思いは共通しているはず。議論が起きているのは、そのための方法が異なるにすぎない。意見を戦わせるときには、互いの共通点を改めて確認しておくことが重要だ。  渋沢の場合は、父に「日頃、あなたが世のなりゆきをお嘆きなさるのも私と同じ思いで」と語りかけている。つまり、「世の中を嘆いている父と同じような心配を私も抱えている」という共通点を強調。そのうえで、次のように論を展開していく。 「もはやこの時勢になった以上は、百姓、町人、または武家の差別などないし、血洗島村の渋沢家一軒の行く末を気にしても意味がありません」  将来を心配する点では同じだけれども、自分はより深刻な状況と受け止めている、ということを伝えている。いわゆる反論部分にあたるわけだが、共通点から少しずつ離れて、丁寧にひっくり返していくイメージを持つとよいだろう。  初めから強固に相違点を主張すると、相手もなかなか受け入れづらい。だが、「おっしゃることはごもっとも」「私と同じ思いで」と相手の懐に入ってからの提案だと、同じ意見にまではならなくても、「そういう考え方もあるかもしれない」と相手の許容範囲を押し広げることができるのである。  上記のように、渋沢は「相手の意見をまず受け止めて」「共通点を確認し」「その共通点から、丁寧にひっくり返す」ことで説得を重ねてきた。  この順で伝えられれば、相手に「自分とそこまで違う考えをもっているわけではない」という安心感と腹落ち感を与えやすく、対立していた意見も合意に近づけることができる。

「いや!」「でも……」と否定しない

 渋沢はこのテクニックを、従弟の渋沢喜作にも用いている。  父から自由になった渋沢は結局、攘夷の活動を断念。故郷を追われるように出立し、江戸に数日滞在したのち、京へと向かった。そこで、かつて京に上った際に築いた人間関係を生かして、一橋家に任官することを決意する。  だが、それまで「尊王攘夷」を掲げて、幕府をむしろ倒そうとしていた立場である。にもかかわらず、幕府と深いかかわりをもつ一橋家に任官するというのは、いかにも節操がない。同行者の喜作は、渋沢にこう反対した。 「これまで幕府を潰すということを目的に奔走してきたのに、我が心に恥ずかしく思わないではいられないではないか」  渋沢はこのときも「いや、そんなことはない」とは言わずに、「なるほどその通りに違いない」といったんは受け止める。そのうえで、共通した自分たちの状況を確認する。  「だがもう一歩進めて考えてみると、ほかに手立てもないし、首をくくって死ぬのが妙案という訳でもない」  未遂とはいえ、過激な攘夷計画をしていた二人は、幕府から追われる身にあった。そんな共通の状況を確認してから、「わかるよ」から「でもしかし」へ、丁寧にひっくり返して、このように提示している。 「まずこの緊急の場合だ、ためしに一橋家に奉公してみようじゃないか」
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