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ファスト映画問題でわかった「映画は長くて耐えられない」人たちの存在

ファスト映画で映画の何を楽しめるのか?

 こうなると、かつてほど大っぴらにすることはなくなったし、口では「著作権」をうるさくいう人が増えたが、おおかたの人は「まあ、自分だけなら」と考えていないフリをしつつ、違法にアップロードされたコンテンツを楽しんでいるということだろう。  だから「この悪党共が!!」と、叩くような記事なんて書けないわけだが、問題はそれで楽しむことができてしまっている現状である。この記事を書くにあたって、いくつもの「ファスト映画」をYoutubeで探して視聴してみたが、筆者は純粋に、これで楽しんだ気になれる理由がわからなかった。  どの動画も10分にコンパクトにまとめて、あらすじを語ってもポイントがズレていたり、ナレーションや字幕で示されるあらすじを観ても、物語の内容を語ることができず、抽出されたシーンでの登場人物の行動とセリフを述べただけの、ちぐはぐなものになっている。  それは当然である。世の中には早送りしたくなるような映画や不眠症に最適な映画も数多く存在する。それでも映画を観るというのは、70分から2時間くらいの時間を割いてスクリーンを注視することを前提に制作されている。それを10分に短縮して、かつ演者や監督の意図、作品のテーマ性まで理解できるような動画にするのは、一流の編集マンでも困難だろう。ところが、既に世の中は、それでも雰囲気だけ知ることができれば構わないという人が多数のようだ。

1時間のドラマ、30分のアニメが長くて耐えられない

「最近は、数時間を割いて映画館で、ほかになにもやらずにスクリーンに没頭するのは特殊技術なんじゃないかと思うようになっています。というのも、1時間のテレビドラマや30分のテレビアニメでも“長くて耐えられない”という人によく出会うのです。  集中力がないわけではありません。配信サービスも普及して多くの作品が観られるようになった中で『時間を割いたのにつまらなかったらどうするんだ』と、時間を無駄にすることが不安なようです。だから、時間が無駄になってしまうかも知れない映画なんて敬遠されます。そうした人たちがファスト映画を喜んでいるのではないでしょうか」(映画ライター)  筆者の感覚だと「あまりにつまらなくて寝た」すらも長く貴重な体験だと思うのだが、それもまた奇人の扱いなのだろうか。昨年来、コロナ禍で映画の試写会も減少し宣伝配給会社からは、オンラインで試写を鑑賞できるようにURLとパスワードが送られてくることが増えた。  しかし、どんなに大きな画面で見てもスクリーンのような没入感はない。「ファスト映画」の問題は、著作権よりも映画は映画館で観るように出来ているという常識が失われていることを示しているように見える。
ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』
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