更新日:2021年12月13日 08:16
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ジャーナリスト安田純平が語る「アフガン撤退に見る日本の“棄民体質”」

アメリカは撤退し、中国はタリバンと手を結ぶ

旧アフガニスタン政権の警察

旧アフガニスタン政権の警察。中国企業が開発権を落札した、世界有数の銅山の周囲を警備していた。治安悪化で国内の資源開発はほとんど進まなかったが、タリバンが制圧したことでむしろ進展する可能性も=2010年12月、ロガール州

西牟田;でもタリバンは、中国政府が封じ込めようとしているウイグルと、同じイスラムということで通じ合っていたんじゃないでしょうか。 安田:私がシリアで3年4か月捕えられていたうちの2018年の半年間、ウイグル人が運営する施設にいました。施設の代表者はアフガニスタンで戦ったことがある人物だと、看守たちが話してくれたことがありましたよ。 西牟田:東トルキスタン独立運動をやっていて、国外に出てきたんですよね。そしてタリバンのいるアフガニスタンに身を寄せ、そしてシリアにきたと。 安田:そうだと思います。彼が身を寄せたタリバンが中国と関係を結んだことで、ウイグル人ははしごを外されてしまったということになりますね。アフガニスタンにいたウイグル人は、より活動しやすいシリアにすでに移動していたのではないかと思いますが。 西牟田:国内のイスラム教勢力を敵対視して、教化したり弾圧したりしてきた中国政府がタリバンと手を結ぶなんて、ずいぶん矛盾した話だと思いますが。 安田:中国にしろロシアにしろ、人権も表現の自由も制限されている国です。タリバンがどれほど人権を侵害しようとも、資源開発ができれば中国は気にしないでしょう。また、イスラムとは相容れない相手であっても、タリバンとしてはそれでよいということなのでは。 西牟田:今後、アメリカとアフガニスタンはどうなっていくでしょうね。アメリカはどんどん内向きになり、アフガニスタンは中国にバックアップされてそこそこ発展していくのか、それともアメリカの無人機とテロリストとの戦いが続くのか。 安田:中国は投資を続けたいだろうし、タリバンは資金面も含めて後ろ盾が欲しいだろうから、カブール市内などの中国関係施設はタリバンが護衛するんじゃないでしょうか。送り込まれた中国人労働者は施設と作業現場の往復しかしないので、タリバンの護衛がつくなら中国はリスクを負ってアフガニスタンに残るのではないかと思います。タリバン政権の人権問題には干渉せずに……。  アメリカは相当縮小するかまたは完全撤退するので、タリバン側からしかけなければ無人機攻撃をする必要もないし、すぐ忘れられていくんじゃないですかね。

日本大使館は「電話で退避勧告をする」という“いつもの”職務はまっとうした

西牟田靖氏

西牟田靖氏

西牟田:8月末に、タリバンが政権掌握をしたアフガニスタンへ各国が特別機を飛ばし、自国民や関係者の脱出を図りました。アメリカが11万人、カタール4万人以上、アラブ首長国連邦(UAE)3.65万人、英国1.5万人、ドイツとイタリアが5000人、フランス3000人、韓国391人と続きます。  一方の日本はといえば、8月27日に日本人女性1人を乗せ、パキスタンへ出国させたのみ。国際協力機構(JICA)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などに属する日本人6人や関係者や家族約500人は現地に取り残されたまま、自衛隊機は撤収。救出作戦は完了しました。結局、日本が救出したのはたった1人という結果に。しかも大使館員は8月17日には救出作戦が始まる前に出国しています。  8月末に、自衛隊機での救出作戦を岸信夫防衛大臣が終了を宣言しました。その10日あまり前の8月17日、日本大使館の館員12人が出国しています。これは早すぎる気がしました。 安田:戦争が始まるとなれば、日本大使館は早急に撤退します。それが彼らにとっては平常運転ですし、いつもの光景ですよ。2003年のイラク戦争の時は、開戦数日前に全員撤退して大使館を閉めていましたから。 西牟田:閉める前に、彼らなりに職務をまっとうしていたと考えることはできませんか?「アフガニスタンの日本大使館が、閉鎖前に同国在住の日本人に毎日電話をして帰国を勧告し、在留の意志を確認し、『うるさいから、もう電話をするな!』などの対応を受けていた事実は、報道されていない」(9月2日高橋和夫氏)というツイートが話題になりました。 安田:今回は「大使館員が撤退するまでは、在留邦人に電話などで退避を勧告する」といういつもの職務はまっとうしたかもしれません。しかし、近年は日本のNGO関係者にビザが出ていなかったし、在留邦人は国際機関の職員か、現地に家族のいる人たちでしょう。  日本政府は、政府機関の現地協力者以外は邦人本人だけが退避の対象です。家族を置いては退避できないのに、連日「退避してください、退避してください」と連呼されたら、中には「うるさい」と言う人がいても不思議ではないと思いますよ。ずっと戦争が続いている国であることを知ったうえで住んでいる人たちですし。  高橋和夫氏がツイートで述べていたように、連絡のつく在留邦人には本人か家族に電話などで退避を呼びかけます。しかし、ある程度やったら救出の目処がたっていなくても大使館員が撤退するのはいつもの光景で、それ以上のことはできない。日本の邦人保護はその範囲のものだし、残る人はそれを承知で残るものだと私はずっと主張しています。今回もその通りになりました。
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日本政府は現地人の退避・保護の必要性を認めてこなかった
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中国の「爆速」成長を歩く

1990年代初頭からの、中国の急激な成長の実像をたどる

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