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内閣官房のモニタリング検査、評価できる点もあれど、目的は果たせていなかった

内閣府モニタリング検査と東京都モニタリング検査、日毎新規感染者数・検査数統計を比較する

 全国規模(14都道府県合計)では、最後にがっかり息切れしてしまったものの、内閣モニタリング検査はもうひと頑張りの水準まで達していたことが分かりました。それでは、東京都ではどうでしょうか。東京都では内閣官房と東京都がそれぞれ別個にモニタリング検査を行っており、規模も大きなものとなっていました。  それでは、内閣官房モニタリング検査、東京都モニタリング検査、日毎新規感染者数・総検査数を東京都で比較してみましょう。
内閣官房モニタリング検査 東京都2021/2/22〜2121/11/14

内閣官房モニタリング検査 東京都2021/2/22〜2121/11/14/検査陽性率(青・黒,‰, 片対数)左軸/検査数(水色 件 線形)右軸/<出典:内閣官房

東京都モニタリング検査 東京都2021/5/2〜2121/11/14

東京都モニタリング検査 東京都2021/5/2〜2121/11/14/検査陽性率(赤, ‰, 片対数)左軸/検査数(茶 件 線形)右軸/出典:東京都福祉保健局

東京都における日毎新規感染者数と総検査数の推移2021/2/115-2021/11/22

東京都における日毎新規感染者数と総検査数の推移2021/2/115-2021/11/22/新規感染者数(橙)と検査充実率(灰)は片対数(左軸)、総検査数は線形(右軸)/NHK集計データおよび東京都オープンデータより/※総検査数には抗原検査を含む。検査充実率は、新規感染者数/検査数

 東京都では、11月上旬に新規感染者数が増加に転じましたが、その後増減もみ合いながら11月下旬まで微減しています。東京都モニタリング検査、内閣官房モニタリング検査共に10月末までは最低限の検査規模を保っており、感染者数の傾向を把握出来ていましたが、やはりサンプル規模過小のために、既に定量的評価は不可能と言って良い状態でした。東京都の無症状感染者の濃度は、10月に入り100ppmの桁に入っていましたので、定量的評価には10万検査の桁の検査数が必要でしたが、多いときでも精々数万検査程度でしたので10月中の時点で傾向は見えるが定量的には有意差がないという状態でした。  11月に入ると内閣官房モニタリング検査も東京都モニタリング検査も検査規模を大幅に縮小してしまい、市中感染者の検出下限があがった(感度が下がった)状態となり、肝心な11月におけるエピデミックの推移は見えなくなってしまっています。但し、たいへんに検査集団が小さいとは言え、内閣官房モニタリング検査、東京都モニタリング検査共に数人の不顕性感染者が検出されています。これが偶然なのか、市中感染者の増大を示しているのかは現時点では分かりません。  一方で、日毎新規感染者数と総検査数の統計からは、東京都の日毎新規感染者数(橙点)は、11月に入り1〜2ppm(推定市中感染者濃度で100〜200ppm相当)で停滞しています。  東京都で特筆すべきは、検査充実率(TCR;1名の感染者を見つけるに実施する検査数)が200〜400と高い水準を維持していることです。旧西側陣営で最も成功している台湾がTCR=1000〜5000程度ですので、東京都は、台湾にあと一桁まで迫っています。  在来株ではTCR=100〜1000の水準で台湾ではゼロ・コロナを1年維持してきましたが、感染する力(感染者が放出するウイルス量)が一桁以上大きいデルタ株などのVOC(懸念される変異株)に対しては、一桁高いTCR=1000〜5000程度で台湾ではゼロ・コロナを実現しています。  関東全域で第6波エピデミックSurgeが成長しつつあるなか、東京都が辛うじて持ちこたえている理由の一つとして検査を積極的に行うようになったことがあるでしょう。

内閣府モニタリング検査と日毎新規感染者数・検査数統計を比較する(神奈川県)

 それでは隣県の神奈川県を見てみましょう。神奈川県では、既に第6波エピデミックSurgeの初期過程での成長が始まっていると考えられ、現時点では関東での第6波中心となっているようです。
内閣官房モニタリング検査 神奈川県2021/2/22〜2121/11/14

内閣官房モニタリング検査 神奈川県2021/2/22〜2121/11/14/検査陽性率(黒,‰, 片対数)左軸/検査数(水色 件 線形)右軸/<出典:内閣官房

神奈川県における日毎新規感染者数と検査人数の推移2021/2/115-2021/11/22

神奈川県における日毎新規感染者数と検査人数の推移2021/2/115-2021/11/22/新規感染者数(橙)と検査充実率(灰)は片対数(左軸)、検査人数は線形(右軸)/NHK集計データおよび神奈川県オープンデータより/※検査人数の正確な定義は不明。検査充実率は、新規感染者数/検査数

 内閣官房モニタリング検査は、9月から10月の減衰を示してきましたが、検査数が東京都の1/4程度と少なく10月下旬には検出下限となり、以後市中感染者を検出出来ていません。  一方で日毎新規感染者数は、700ppb(ピーピービー;10億分の1)を最低として11月には増加に転じています。1ppmの日毎新規感染者濃度は、市中感染者濃度の100ppm程度に相当しますので神奈川県における内閣官房モニタリング検査での0.1‰(パーミル;千分の一)の桁に相当します。1,000〜3,000件程度のサンプル集団では、100ppmの桁は、ほぼ見えません。  残念ながら検査規模が小さすぎます。これは14都道府県全てで同じで東京都は、あと一歩まで迫っていました。10月下旬から殆どの道府県のモニタリング検査では、何も見えない状態になっています。その中で東京都は、あと一歩まで迫っていました。本当に惜しいことをしました。
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目的を達成出来なかったが貴重なデータを得たモニタリング検査
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まきた ひろし●Twitter ID:@BB45_Colorado。著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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