更新日:2022年03月25日 13:25
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数千万人規模の感染者が見込まれる第6波。大きく遅れる収束時期と求められるLong-COVIDへの対応

検査数統計 世界唯一の検査抑制により飽和が続く

 次に日本、韓国、台湾の千人あたりの日毎検査人数統計を見ます。  本邦では、厚生労働省が世界唯一の検査抑制政策を徹底しているために1月29日には検査陽性率が30%を超えており、執筆時点の3月20日も継続しています。  日本の厚労省が把握しているPCR検査能力は、40万検査/日(民間検査融通可能分を含む)ですが、実際には20万検査(1.8‰)を最高値に漸減しています。  検査能力いっぱいを連日行うことは不可能ですので、日本における継続的検査能力は、20万検査/日程度となります。またサンプルの不確実性(感染していない人)が必ずありますのでそのときの検査陽性率を50%(極大期)として本邦での日毎新規感染者数の検出上限は、10万人/日程度、800ppm(一万人に8人)前後となります。これ以上の新規感染者数の把握は出来ません。  実際に2月10日の実測値が、新規感染者790ppm、検査陽性率44%ですので筆者による推定と一致しています。  サンプリング(抽出)による統計の場合はサンプリングレート(抽出率)が大切で、WHO(世界保健機関)とCDC(合衆国疾病予防管理センター)が指摘するように検査陽性率は5%以下でなければ実態を正確に把握出来なくなります。実際、検査陽性率が5%を定常的に超えると実効再生産数の過小評価が始まっています。  検査陽性率が10%を超えると数え落としが目立ちはじめ、本邦のような検査陽性率30%以上のような状態が続くと統計は飽和してしまいます。この過小評価がどの程度であるかは、検査陽性率が5%以下の時と10%以下の時から外挿して推定する方法がありますが、誤差が大きくなります。このため筆者は加えて死亡統計から真の感染者数を推定する手法を大阪での第4波統計の復元から用いています。
日本と韓国、台湾における千人あたり日毎検査数の推移(‰ 7日移動平均 片対数)検査陽性率(色分け) 2021/01/01〜202203/14

日本と韓国、台湾における千人あたり日毎検査数の推移(‰ 7日移動平均 片対数)検査陽性率(色分け) 2021/01/01〜202203/14 *日本はPCR検査のみ/OWID

IHMEによる日本における真の日毎新規感染発生の推定(人 片対数)2020/01/29〜

IHMEによる日本における真の日毎新規感染発生の推定(人 片対数)2020/01/29〜
IHME/OWID

 現時点で筆者は、本邦における真の感染者数を実測値の5〜10倍と推定しており、IHMEは、8倍を中央値に95%不確実性区間(信頼区間)で4倍から12倍と推定しています。  これらの推定からも日本におけるο株による累計感染者数は、3月中旬時点で数千万人(2千万人から4千万人)に達していると考えられます。  但しこの数値はあくまで暫定値ですので、死亡集計が確定するであろう9月頃までは大きな誤差を持ちます。しかし桁は合っていると筆者は考えており、ο株の累計感染者数は、既に一千万人の桁であると考えるべきです。  なお抗原検査による検査数の嵩上げについては、東京都など統計を公開している都道府県の実績から精々2割から5割増しです。臨床上、治療のためにはPCR検査で確定検査をせねば抗ウイルス薬などの投薬が困難となりますので抗原検査とPCR検査には必ず重なり(ダブり)があります。そもそも抗原検査陽性者は、PCR検査で確定検査することが大原則です。  このダブりを現時点では評価出来ませんので、筆者は抗原検査での補正はダブりの補正を無視して行っていますが、はっきり言って焼け石に水であり数値はあまり改善しません。これは抗原検査、特に抗原定性検査キットの生産性と供給能力が汎用のPCR検査試薬に対して大きく劣るためと言えます。また抗原定性検査、抗原定量検査*共にPCR検査に比して著しく感度が劣るために例え発症者であっても取りこぼすことが感染研による報告他で既によく分かっています。 <*SARS-CoV-2検出検査のRT-qPCR法と抗原定量法の比較 IASR Vol. 42 p126-128: 2021年6月号>  現状では、PCR検査を抑制する、抗原検査陽性者のPCR検査による確定診断をしない、検査自体をしない(見なし陽性)などあり得ないことが厚労省主導で罷り通っており、本邦の統計は1月中旬以降、破綻しています。  筆者はこの破綻した統計の修復を行っていますが、その最大の鍵は死亡統計です。  それでは次に死亡統計を見ましょう。

死亡統計から分かる極大期の通過と下げ渋り

 感染者数統計では、2月10日頃に極大値となり、その後減衰に転じているとなりますが、既述の様に世界唯一の検査抑制政策のために本当に減少しているかすら確証が持てません。  そこで筆者は、死亡者数統計を重視してきました。死亡者数統計は、米欧など諸外国では、日毎新規感染者数統計に30〜40日遅行しています。これはCOVID-19では発症日から15日後程度を中心に死亡することと、死亡者数の集計が遅れるために生じています。  本邦の場合、δ株までの実績で死亡報告の遅れは30〜60日ですが、死亡日から20〜30日の遅行で報告の最大値となり、その後も報告が続き、死亡日から60〜90日で集計が確定する実績です。  この遅行日数と集計の遅延について全く無視しする「専門家」が、極端に過小評価した致命率を算出してο株について「たいしたことないと」誤った発言する事が多く見られました。この遅行日数と集計の遅延については、CNNやBBCの一般ニュースですら言及する基本中の基本ですので、本邦の「専門家」は、あまりにも程度が低すぎます。  実際に日本、韓国、台湾、中国、世界、アジアにおける百万人あたり日毎死亡者数の推移をみますと、本邦における死亡の極大値は2月28日となっており、その後ゆっくりと減少しています。  ο株では感染発生から発症、その後の病状の推移がδ株までより早く、感染者が亡くなるときは、δ株までより早く亡くなっている可能性があります。またο株では病態がδ株迄と異なり、肺炎を起こしにくいものの、既往症の増悪や血管内壁を冒されるなどδ株までとは他の原因で亡くなっている方が多々見られるようです。  死亡統計は、人為的に操作しにくい事が常識で、旧ソ連邦の観察者は、特に統計の隠蔽が進んだブレジネフ政権末期とチェルネンコ政権時代に死亡統計をたいへんに重視していました。  死亡統計は、社会の実態を観測する最後の砦と言えます。  昨年より、警察庁が厚労省の把握していない「SARS-CoV2に感染した変死者」の統計を公表していますが、これによる揺らぎは+20%前後であり、厚労省集計の死亡統計が実数の五分の一などと言った極端な過小評価であるという風聞は否定出来ます。  IHMEは、COVID-19による真の死亡者数は、日本では厚労省集計の5倍であると主張しています。筆者は、感染研が公開している超過死亡ダッシュボードなどからも最大限見積もって2倍程度であり、実際には厚労省集計の1.5倍から2倍の範囲と推定しています。  この程度の誤差ならば、とりあえず厚労省集計の統計をそのまま使っても極端な過小評価に陥る事はありませんので筆者は、リアルタイムの死亡者数分析には厚労省のデータをそのまま使っています。最終的な評価は半年以上あとでないと集計が確定しませんがその際は、警察庁発表分と超過死亡ダッシュボードにある推定も組み込んでいます。  本稿では、厚労省集計をそのまま使っていますが、実際には別に少なくとも別に20%程度の警察扱いの死亡者がいます*。 <*警察庁集計分は、検死した遺体からSARS-CoV-2が検出されたものであり、COVID-19関連死で無いものも含まれる可能性がある。遺体発見時の状況から関連性は分類されている>  本邦では、7日移動平均で1.9ppm/日(人口百万人あたり約2名/日)の死亡数を示し、その後一貫してゆっくりと減少しています。1.9ppm/日は、約240人/日となります。  20日後の3月19日現在で1.1ppmですので40%しか死者数が減っておりませんが、2月10日以降の日毎新規感染者数の減少は死亡統計からも裏付けられたと考えて良いです。
日本と韓国、台湾、中国、世界、アジアにおける百万人あたり日毎死亡者数の推移(ppm 7日移動平均 片対数) 2020/12/31〜202203/20

日本と韓国、台湾、中国、世界、アジアにおける百万人あたり日毎死亡者数の推移(ppm 7日移動平均 片対数) 2020/12/31〜202203/20
OWID

 次に累計死亡者数を見ます。第6波での累計死亡者数は、現在約8,800人となっています。この死亡者数は過去最大であり、現在の増加率から少なくとも12,000人前後まで増加すると思われます。  遅行日数を考慮して評価すると実測値の8,800人に対応する第6波累計感染者数は、2月末の330万人となります。この数値から致命率(CFR*)は3‰と見積もられます。この数値から感染致死率(IFR**)300ppm程度となるためには、真の感染者数は3,000万人程度の感染が見込まれます。 <*CFRは、診断書の付いた死亡者数を診断書の付いた感染者数で割ったものである。COVID-19の場合、数‰から数%程度である> <**IFRは、真の死亡者数を真の感染者数で割ったもので、分子分母共に推定値である。COVID-19の場合、数百ppmとなり、季節性インフルエンザの10倍から数十倍である>  参考までに季節性インフルエンザの場合、インフルエンザで直接亡くなる人の数は約1000人/シーズン、インフルエンザ関連死も含むインフルエンザ超過死亡が約3000人/シーズン程度の規模であると分かっています*。 <*2018/19シーズンにおける超過死亡の評価 IASR Vol. 40 p192-194:2019年11月号 ほか
日本と韓国、台湾、中国における累計死亡者数の推移(人 線形) 2020/12/31〜202203/20

日本と韓国、台湾、中国における累計死亡者数の推移(人 線形) 2020/12/31〜202203/20
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 あくまで暫定的ですが、ο株Surgeでは3月中旬までに数千万人規模の感染者数が推定され、死亡統計、感染致死率などからも妥当性があります。
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収束はいつになるか
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まきた ひろし●Twitter ID:@BB45_Colorado。著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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