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政治の犠牲になった能登地震<著述家・菅野完>

当事者能力のない馳浩知事

 石川県庁もおかしい。馳浩石川県知事が初めて震災に関する記者会見を行ったのは、1月10日になってから。1月1日の誤記ではない。間違いなく1月10日だ。発災後9日たって、ようやく被災県の首長が記者会見をしたというのだから驚くほかあるまい。  内容もお粗末そのもの。なんと発災後9日目の初記者会見で、馳浩知事は「現場を見たい」と発言しているのだ。これまで現場視察もせずに、なにをどう対応していたというのか。そして、なぜか会見の途中で「SDGsの大切さ」を滔々と語り始めてもいる。紋切り型の美辞麗句を持ち出さねば座持ちさえできないということなのだろう。もはや馳浩知事に当事者能力のないことは明らかだ。  馳浩氏は、奥田敬和系の前職知事およびその後継知事を嫌った森喜朗氏によって2022年の知事選に擁立された。横車とも言うべき森氏の行動に対し、自民党の石川県連は反発した。しかしそれを安倍晋三が力でねじ伏せようとした。そうした経緯を経て、知事選挙で自民党は三分裂することになる。そして僅差で馳氏が勝利し、知事の座を掴んだ。馳氏を支援した自民党の県議会議員はほとんどいない。その後の県議選でも、馳氏はいわゆる「刺客候補」を反馳派自民県議の選挙区に送り込んだものの、ことごとく返り討ちにあっている。  こうしたことから、馳氏は自民党系知事でありながら、自民党が多数を占める県議会に足場を持たない。この政治的不安定さが、石川県庁の初動の遅れに影響しているとの指摘もあるが、そうではあるまい。単に、馳知事が無能なのだ。  しかしそうした無能な人物を知事に据えたのは森喜朗氏や安倍晋三氏の政治判断であった事実は揺るがない。永田町の政治の都合――今回の場合は、森喜朗氏の個人的な好悪の感情でしかないが――で、結果論的にではあるが、およそ非常時の指揮対応能力のない卑小な人物が、首長となってしまった。それこそが、石川県庁の初動の遅れの原因だろう。  馳浩氏知事選擁立の政治的責任を負うべき一方の当事者である安倍晋三氏はすでに死去した。生き残った森喜朗氏は、清和会裏金事件の報道が過熱した昨年末になぜか急遽、高級老人ホームに夫婦そろって入居したという。いまごろ、暖炉の火にでもあたりながら、テレビが映し出す故郷・石川県の被災の様子を、おしどり夫婦と謳われた智恵子夫人の手を握りながら眺めているのだろう。幸せな老後を寿いでおこう。  無能ゆえに責任を感じることさえできない馳浩知事。幽明界を異にする安倍晋三氏。老人ホームの瀟洒な塀の向こうで温かい老後を過ごす森喜朗氏。この三人が政治的責任を負うことはもはやなかろう。  今日も、初動の遅れを回復することもなく、明後日の方向を向いた震災対応が続いている。テレビやネットニュースは、つぎつぎと死者数の増加を伝え、震災関連死さえ急増している。 「このままじゃ、捨てられたようなもんだわ」  あの被災者の声が、森喜朗氏の耳に届くことは、もはやあるまい。 <取材・文/菅野完 初出:月刊日本2024年2月号
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月刊日本2024年2月号

【特集①】自民党に政治改革ができるのか
石破 茂 全自民党議員よ、「政治改革大綱」を拳拳服膺すべし
山崎 拓 新総裁は無派閥から出すべきだ
郷原信郎 政治資金規正法を抜本改正せよ
倉重篤郎 究極の政治改革とは何か
高田昌幸 「陸山会事件」を彷彿とさせる自民党裏金報道

【石橋湛山生誕140年】
村上誠一郎 権力と戦い抜いた湛山に学ぶ

【特集②】シリーズ日本の〝亡国に至る病〟第一回 対米従属という病根
進藤榮一 対米自立の鍵はアジアにあり
ロマノ・ヴルピッタ 日本よ、アジアにこそ目を向けよ

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