捕まえた空き巣の下半身をスマホで撮ってSNSで拡散。被害者が私的制裁を加える中国の「スマート私刑」
街頭の柱に後ろ手に縛りつけられ、なす術もなくたたずむ中年男に、道行く人々の奇異の目が刺さる。
中華人民毒報】
行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売
これは10月半ば、中国SNS上で拡散した画像だ。『新浪新聞』(10月24日付)によると、浙江省余姚市の路上で撮影されたもので、縛られていたのは女子中学生にストーカー行為を働いた50代の男。被害者の家族が捕らえ、私的制裁を加えたというわけだ。
また、11月2日には広西チワン族自治区南寧市の食肉市場で、羊肉を万引しようとした中年女性が取り押さえられた。彼女は「羊肉を盗みました」と書かれた紙を背中に貼られたうえ、鎖で縛りつけられ、警察が鎖を切断するまで放置されたという(『新華網』)。
警察や司法への不信感が根強い中国では、これまでも窃盗犯や性犯罪者に対し、被害者や関係者が私刑を加えることは少なくなかった。だが、袋叩きのような暴力的な私刑から、新たな潮流が生まれつつある。中国人ジャーナリストの周来友氏はこう話す。
「最近では、私刑で暴行を加えたほうが逮捕されるケースも増えている。そこで流行しているのが、捕らえた犯人を拘束して人前に晒すという懲罰。現代社会では野次馬が“受刑者”をスマホで撮影し、SNSにアップするので、懲罰効果はかつての数百倍になった」
まさに「スマート私刑」とでも呼ぶべきだろうか。広東省広州市在住の日系工場勤務・戸田誠さん(仮名・46歳)の元にも最近、チャットアプリ経由で、“公開処刑写真”が届いた。
「近隣住人から微信(中国版LINE)で、痴漢が街路樹に括りつけられた画像が送られてきた。『最低10人に転送!』と、不幸の手紙のようなリクエスト付きでね(笑)。犯人が受ける社会的制裁はかなり大きいでしょう」
スマート私刑は刑法で保護される少年犯罪にも威力を発揮する。広東省東莞市のメーカー勤務・高島功夫さん(仮名・38歳)の話。
「ウチのマンションの警備員が空き巣を捕まえたんですが、聞けば15歳。警察に引き渡しても罪に問われないので、住民たちは彼の下半身を露出させたうえで、『私は泥棒です』と書かれた札をクビから吊るし、スマホで写真を撮ってネットにアップするという制裁を加えていました。残酷ですよ」
しかし、中国在住のフリーライター・吉井透氏はスマート私刑の限界を指摘する。
「『恥の文化』を持つ日本人なら、ストーカー容疑で街頭に晒され、その画像がネット上に拡散したら、もう外を歩けないと思うでしょう。しかし中国の犯罪者は、それほどヤワじゃない。晒し刑には社会的制裁や見せしめとしての効果はありますが、犯人が受ける精神的ダメージはそれほどでもない」
そんななか、暴力による制裁の後に晒し者にするという私刑も行われている。『貴陽晩報』(11月2日付)によると、貴州省の農村で犬を毒殺したうえ持ち去ろうとした男2人が村民らに捕まった。村民らは、彼らを袋叩きにしたうえ電柱に縛り付け、毒殺された犬を彼らの首からかけた状態で、約10時間にわたって拘束したという。さらに昨年、広西チワン族自治区でも、犬泥棒に対し同様の制裁が加えられている。結局、「以暴制暴(暴力をもって暴力を制する)」しかないということか……。 <取材・文/奥窪優木>
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