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森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。

番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(31)

 たとえば警察では、団塊世代の大量退職時代を迎えた2006年~2015年の10年間で、約10万4400人におよぶ退職警察官の再就職をあっせんしなければならなかったとされる。

 日本の警察とは、許認可権と捜査権を同時に持ち、のみならず「司法権も有する」行政組織という世界でも珍しい機構だ。

 おそらく他の先進国では類を見ないほど、いち行政組織に権力が集中する仕組みとなっている。

 おまけに安倍政権の第三次改造内閣では、杉田和博が内閣人事局長に就いた。

 内閣人事局とは、約600人の府省庁高級官僚人事を一手に掌握する部署である。人事権を行使して、霞が関の諸省庁を牛耳ることができる。そのトップに、公安畑をずっとあるいてきた警察OBを据えた。

 そこまで集中した権力を与えられているのだから、もう怖いものなどない。

 警察がその気になれば、なんでもできる。

 それゆえ、裁判所が発令した「準強姦罪」の逮捕状を、警察官僚が勝手に握りつぶしたりする。それのみか、「安倍首相お抱えジャーナリスト」・山口敬之の逮捕揉み消しを指揮した中村格・警視庁刑事部長は今月(8月)10日付の人事異動で、めでたく警察庁長官官房総括審議官にご栄転あそばされた。

 日本の統治システムを俯瞰してみれば、言っても詮無いことなのかもしれないが、それでも言ってしまう。

 日本は、自身を法治国家と思っているのか?

 2011年、パチンコ・ホールを約200店舗もつ大手チェーンの経営者が、クスリ関連(『覚せい剤取締法』違反容疑)で逮捕された。

 どうなることか、と業界関係者は息を詰めて見守ったそうだ。

 ところが、その会社の経営には、これといった影響が見受けられない。

 その代りその会社には、約50名の退職警察官が再就職先として送り込まれたそうである。

 パチンコ業界のみならず、「総会屋対策」として、多くの大企業にも警察天下りが送り込まれている。

 その業態でにせよ法規的(例えば『労働基準法』)でにせよ、グレイな部分とかかわることが多かろう中小の企業にも、退職警察官が大量に押し付けられる。

 もう日本の「市場経済」とやらは、公務員および退職公務員たちの網の目で絡み取られている状態だ。

 いやいやそれのみか、公的年金を運用する年金積立金運用独立行政法人(GPIF)と日銀を合わせた公的マネーが、東証一部上場企業の25%以上の企業の実質的な筆頭株主となっている。

 日銀がどこどこカネをつぎ込む株式市場は、「官製相場」と化し、自由市場がもう機能しなくなった。

 以上は、反共産主義・反社会主義を標榜しているはずの資本主義国家が、国策としてやっているのである。

 そういうがんじがらめの環境に、資本主義のエッセンスを集中し濃縮したようなカジノ産業が、初めて認可される。

 許認可権と捜査権を同時にもつ日本の警察は、どうやって新規カジノ産業を掌中に収めていくのか? 

⇒続きはこちら 番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(32)

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番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(30)

 日本でカジノが「公認」されるようになれば、警備および危機管理について、直接的にせよ間接的にせよ警察機構およびその関係者がかかわるのは、ある程度しかたあるまい。なぜなら日本に存在する警備・危機管理企業は、そのほとんどが警察OBたちによって経営されているのだから。

 日本の警察組織、というか官僚機構全般にわたり、その職員の退職後の再就職を積極的に斡旋することで世界に知られる。

 いわゆる「天下り」だ。

 高級官僚(キャリア組)はもちろんのこと、なぜか下級職員たちまで「天下り」の恩恵に浴する仕組みになっている。

 キャリア組の「天下り」は、民間企業・団体と各省庁の癒着の結果であり、「あと払いの収賄」的要素が濃厚なのでわかりやすいが、日本の役所はなぜ下級職員たちにまで再就職先をあっせんするのか?

 退職後の相対的に潤沢な公務員年金以外にも収入保障をして、現役職員たちおよび退職者たちに組織にたいする忠誠心を抱かせるためである。

 それゆえ、役所でおこなわれている構造的癒着や不正は、ほとんど告発されることがない。

 じつは『刑事訴訟法』で、公務員は不正を見つけたとき、それを告発する義務を負う。でも、「忖度」と「(上級者の)ご意向」が幅を利かす省庁で、不正告発などされたら、たまらんのじゃ。

 それゆえOBたちは、元の職場が構造的におこなっている悪事をバラせない「共犯」関係に組み込まれる。

 わたしの理解では、「テント・ションベン理論」の実質的な部分応用であろう。

「テント・ションベン理論」とは、第36代アメリカ大統領だったリンドン・B・ジョンソン(通称・LBJ)が言語化した。

 政府執行部の任命に際し、LJBは自分に批判的だった民主党内のうるさ型上院議員をキャビネットに入れた。

 なんであんな奴を入閣させたんだ、との取り巻きの反発に、

「あいつがテントの内側から外に向けてションベンしても一向にかまわんが、外からテントの中に向けてションベンされては、かなわんじゃろが」

 と、第36代アメリカ大統領はまことに説得力に溢れる返答をしている。

 これすなわち「テント・ションベン理論」。

 不満分子も受益者に仕立て上げ、告発を封じる。

 それゆえ日本の省庁は、下々の職員たちの再就職先まで面倒をみるのである。囲い込んで黙らせる。

 テントの外からテントの中に向けてのションベン「自粛」。

 どうしてもションベンをしたくなったら、テントの中から外に向けてやってくれ、と。

 日本の官僚機構が、この「テント・ションベン理論」を実践するためには、受け皿となる民間企業あるいは財団・公益法人が膨大に必要となる。

 だから日本では、狭い国土にもかかわらずその隅々まで、国および地方自治体から大枚な補助金を頂戴する、わけのわからん、あるいは実体が不明なユーレイ公益法人がぼこぼこと設立されているのである。

 もう納税者たちは、いいように喰いものにされていた。

 まあ、長い物には巻かれろで、それに文句を言わない国民たちにも責任があるのだが。

⇒続きはこちら 番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(31)

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番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(29)

 ここで、例によって話が飛ぶ。

 以下は、2017年7月11日、「出玉規制へ 3分の2に 警察庁、依存症対策」と題された毎日新聞電子版の記事だ。

カジノを合法化する「統合型リゾート(IR)整備推進法」が昨年12月に成立したことを受け、警察庁はギャンブル依存症対策の一環として、パチンコの出玉規制基準を定めている風俗営業法施行規則の改正案をまとめた。出玉数を現在の3分の2程度に抑えることが主な柱。改正案に対する意見を一般から募り、来年2月の施行を目指す。

警察庁は依存症対策の強化には、射幸性を抑えることが不可欠とし、規制のあり方について議論してきた。(中略)

警察庁は標準的な遊技時間を4時間程度とみて、純増する出玉が5万円(1玉4円換算)を下回るよう基準を見直した。「1時間の出玉は発射した玉の2.2倍未満」「4時間で1.5倍未満」「10時間で1.3倍未満」として射幸性を抑える。大当たり1回の出玉の上限は、2400個(1玉4円換算で9600円)から、1500個(同6000円)に減らす。パチスロも同様の水準で規制する。【川上晃弘】

 どうもようわからん。

「統合型リゾート(IR)整備推進法」の成立と、パチンコの出玉規制が、いったいどこでどのように結びつくのだろう?

 いやいや、そもそも警察庁は、「(パチンコ・ホールで)換金がおこなわれているなど、まったく存じ上げないことでございまして」

 と、自民党の「時代に適した風営法を求める議員連盟」の質問に答えていたのではなかったか。(朝日新聞。2014年8月5日)

 換金を「まったく存じ上げない」のであれば、いったいどこをどうやって、「出玉が5万円」だの「1玉4円換算で9600円」だのという数字が出てきたか(笑)。

 もう日本の構造的腐敗と付随したグレイゾーン、およびそれを(法規的ではなくて)恣意的随意に監督・管理している警察機構の存在とをよく示した記事だ、とわたしは思う。

 知らない人は居ないだろうが、違法であろうがなかろうが、パチンコで得る(特殊)景品は、ホール→古買商→専門問屋→ホールという手続き(三店方式)の中で、換金できる。

 その中間過程に、警察共済組合が絡むことも周知の事実だ。

 たとえば、特殊景品の「金地金」を統括するのは、東京では東京商業流通組合(TSR)と東京ユニオンサーキュレーション株式会社(TUC)であり、東京以外にも同様の目的で創設された会社が、各道府県庁所在地ごとにある。どの会社も経営陣のほとんどすべては警察OBの天下りで占められている。

 それゆえ、『風営法』(ないしは『風適法』)に確実に抵触しているであろうパチンコでの換金が、摘発されないだけなのである。

 つまりパチンコは、警察共済組合からの出資も多い、警察の主要な利権産業となっていた。

 その警察が、ギャンブル「依存症」対策として、パチンコおよびパチスロでの出玉を抑える『風営法』施行基準に改める、と言い出した。

 なんか、怪しい(笑)。

 日本警察は、パチンコ利権からカジノ利権に乗り換えようとしているのか。誰もが抱く疑問だろう。

 じつは2015年夏、ヴェネシアン・マカオのPAIZA(LVS=ラスヴェガス・サンズ社のVIPフロア)で、日本の警察庁キャリア官僚十数名が「研修」する姿を、たまたま目撃してしまったのだが、その時に抱いた不安が現実のものとなっているのか。

 しかし、どうやって?

⇒続きはこちら 番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(30)

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賭けるゆえに我あり

番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(28)

 もちろん日本で「公認」カジノがオープンすれば、最初の3~4年は、各大手カジノ事業者が既にもつプレミアム・プレイヤーのリストに載る日本国外の打ち手たちだけで、VIPフロアは埋まるのだろう。  しかし物珍しさや招待の好条件 […]

番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(27)

 以前説明したように、日本で政府公認カジノがオープンしてからの5~6年は、国内の「グラインド・プレイヤー(GRIND PLAYER。一般フロアで打つ人たちのこと)」だけでも、ハウス側は充分な収益が見込める、とわたしは予測 […]

番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(26)

 いろいろとあちこちに飛んでしまったが、話をこの稿のもともとのテーマである『IR実施法案』における「ジャンケット」の取り扱いに戻す。六本木のやくざが出てきたり、旧帝国陸海軍が出てきたり、韓国大統領が出てきたり、「銀座のカ […]

番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(25)

 蛇足ついでに、付け加える。  丁半、バッタまき、手本引き等の日本の伝統賭博ではなくて、ルーレット、ブラックジャック、バカラといった種目がある「欧米」流のカジノが、(もちろん違法だったわけだが)日本で最初にできたのは、現 […]

番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(24)

 BJ(ビージェー。=ブラックジャック)では、ディーラーが手持ちの一枚目のカードをオープンにする。  このカードのことを、日本の非合法ないしは韓国の公認カジノを除けば、世界中ほとんどのカジノで、「アップ・カード(UP C […]

番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(23)

 こと「日本のカジノ用語」に関する限り、わたしはちょっぴり自慢してもよろしい、と自負する。  というのは、わたしが文章を発表するようになってから、日本の打ち手たちの「和製カジノ用語」が、ほんのわずかずつだが「正しいカジノ […]

番外編その4:『IR推進法案』成立で考えること(22)

 わたしが日本を離れたのは、1971年、23歳の時だった。3年弱、世界をうろついている。  一時短い間日本に戻って身辺整理をし、1975年に本格的にイギリスに移住した。  この1975年からわたしは、ロンドンのカジノで賭 […]

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