名作の舞台で酒色にまみれる。四国・松山、夜の『坊っちゃん』探訪

 日暮里の安酒場にあるヤニと埃にまみれたテレビを眺めている。画面の中では平年よりも遅い梅雨明けを伝えるニュースと同時に、本格的な夏休みの到来を待ちわびていた子供たちが、海でプールでとはしゃぐ姿が映し出されている。ふと、我に返ってみれば、何かに耐えるような顔をしながら安酒を啜る、オヤジたちの群れに溶け込んでいる自分に気づいた。

「ここにいては沈んでしまう」

 柄にもなく情緒的な気分に浸ったスギナミは、夏の“旅打ち”(「俺の夜」用語。飲みの場を地方・海外に求める放蕩行為)の舞台を文学の街・松山に設定。夏目漱石没後100年にあたる今年、名作『坊っちゃん』の舞台を飲み歩こうという目論みだ。僕は、機上の人になった。

人懐っこさは天下一品のマドンナちゃんを発見!

「好きなタイプは佐藤健」というユキちゃんに対して「ただの面食いやん」と2人。ライバル感を隠さない生身のトークが楽しめる

 松山空港からバスと路面電車を乗り継ぎ、大街道駅に降り立つ。大型商業施設が立ち並ぶ一番町。飲食店が混在する二番町、三番町を含めた一帯は四国随一の規模だ。宇和島産の新鮮な魚介と地酒で腹ごしらえをした後、夜のお店へ。

二番町付近。チェーン系は少なく、小規模店が軒を連ねている雑多な印象

「お兄さん、松山は初めてぞなもし? いいコおるよ」

 執拗に連れ出しパブへの勧誘を図ってくる赤シャツの追跡を振り切り訪れたのは、二番町にある「サンセット ラウンジェット」というお店。

「いらっしゃいませ」

 席についたのは、道端ジェシカ似のレンカ、大阪のおばちゃん風な語り口が特徴の酒豪メグミ、昼職の都合で広島から松山に流れ着いたユキの3人娘。それぞれ、道端、うわばみ、赤ヘルとあだ名をつける。

「初の四国旅行が松山? お目が高い。四国というと、やれ龍馬だ、福山て、高知を推す人が多いじゃけれ、街の規模は松山が群を抜いとるぞなもし」(うわばみ)

「松山は人が優しいし、可愛い女のコが多いんよ」(道端)

 最後のほう、客引きの台詞ともかぶるが、地方キャバクラにありがちな郷土自慢が始まる。とかくライバル視されがちな愛媛と高知だが、愛媛県人にとって「四国は制圧。当面の敵は広島」ということらしい。瀬戸内海の島と島を結んだ海の道「しまなみ海道」は友好のシンボルではなかったのか。

「初めて松山来たときは、『へぇ、けっこうデカいんだ』って。広島ほどじゃないけど(笑)」(赤ヘル)

 険悪になりかけた雰囲気を、乾杯を繰り返すことで紛らわし、最後は「坂本龍馬がなんぼのもんじゃ~」と妙な気炎をあげたところでお店を後に。

みかん色のカクテルを持ったマドンナたちと乾杯。積極的に場を盛り上げるサービス精神を感じられた

 さて。松山の観光名所といえば、坊っちゃんも8銭の入浴料を握りしめて日参した道後温泉本館(現在の入浴料は400円也)。日本書紀にも出てくる最古の湯として有名だが、来年秋から約10年間の耐震改修工事が予定されており、現存の道後温泉は見納めだという。道後温泉エリアにはスナックやストリップ小屋が密集。想像していたとおり「マドンナ」なんて名前のスナックもあったりして、夜のシメにはうってつけ。この日も、朝風呂の一番太鼓を迎えるまで、へべれけになるのでありました。

【サンセット ラウンジェット】
住:愛媛県松山市二番町2-9-1 Fショコラビル3F
電:089-987-7563
営:19時~ラスト
休:日
料:60分6000円~(ビジター料金)
お店の内観はサーフボード、DJブースをしつらえた西海岸をイメージ

サンセット ラウンジェット撮影/川本晃司(RIOVE)

スギナミ 東京都生まれ。主な出没地域は中野、高田馬場の激安スナック。特技は「すぐに折れる心」
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